日本大百科全書(ニッポニカ) 「愚神礼賛」の意味・わかりやすい解説
愚神礼賛
ぐしんらいさん
Encomium Moriae
オランダの人文学者エラスムスの風刺文。1511年刊。「痴愚神礼讃」の訳名もある。親友トマス・モアのラテン名モルスからモリア(痴愚の女神)を連想してこの題名がつけられた。このモリアが、この世にどれほど痴愚が満ちあふれているかを数え上げ、自分の力を誇るという体裁で書かれている。人間の誕生の原因は結婚にあるが、人が結婚する気になるのは愚神の侍女である「乱心」のおかげなのだといった調子である。哲学者・神学者のくだらぬ論議、君主や家臣の功名心、教皇はじめ聖職者たちの偽善、最大の愚行としての戦争などが、いずれも愚神の勝利として語られる。このように愚神礼賛の合間に、教会の腐敗に対する皮肉たっぷりな嘲罵(ちょうば)が語られていることで、この書は有名である。
[伊藤勝彦]
『渡辺一夫訳『痴愚神礼讃』(岩波文庫)』