江戸後期の俳人。姓は夏目,名は包嘉。幼名は泉太郎。通称は井筒屋八郎右衛門(5代目)。初号は八良治。別に修行庵,随斎,四山道人などの号がある。江戸蔵前の札差の家に生まれ,16歳で家督を継ぐ。伯父祇明,父宗成以下成美一族は挙げて俳諧をよくし,彼も幼少より句をたしなむ。15歳のとき荘丹の《猪武者》に八良治の号で入集。初め2世祇徳に親しんだが,一流派に属さず,門戸も構えず,自ら〈俳諧独行の旅人〉と称した。虚弱多病で脚疾に苦しんだが,人柄は温厚篤実で長者の風格をそなえ,一茶の庇護者として知られる。〈しひて雅を求むべからず,つとめて俗を去るにあり〉(《四山藁(しざんこう)》)と去俗の論を説く。清雅で繊細な感覚の句が多いが,その反面,些末(さまつ)繊弱に流れる。また市河寛斎に学び,彼の平明淡彩な写生詩の影響を少なからず受けた。古書に精通して《随斎諧話》や《七部集纂考》等の考証的著作や注釈書を著し,文章に長じて多くの序跋をしたため,文集に《四山藁》がある。筆まめで1779年(安永8)から1800年(寛政12)に至る《杉ばしら》ほかの句日記を残す。編著は《糂汰瓶(じんだがめ)》《成美家集》など。追善集《三霜》。〈おち葉して日なたに立る榎かな〉(《随斎句藁》)。
執筆者:石川 真弘
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江戸後期の俳人。夏目氏。名は包嘉。江戸蔵前の富裕な札差(ふださし)の家に生まれ、16歳で家督を継ぐ。通称井筒屋八郎右衛門(5代目)。父に習って幼時から俳諧(はいかい)を始め、15歳のおりに松庵撰(しょうあんせん)『猪武者(いのししむしゃ)』(1763)に八郎治の号で入集(にっしゅう)。翌年、成美と改号。別号随斎、四山道人など。一時は2世祇徳(ぎとく)に親しんだこともあるが、流派に属さずに俳諧を楽しんだ。人格円満で長者の風を備え、几董(きとう)、重厚(じゅうこう)、巣兆(そうちょう)らと親しかったが、とくに一茶(いっさ)の庇護(ひご)者として知られる。句風は平明で清雅。文章にも長じ、文集『四山藁(こう)』(1821刊)や俳話集『随斎諧話』(1819刊)、注釈書『七部集纂考(さんこう)』(成立年不明)等があり、また、『杉ばしら』ほか9点の句日記も知られる。化政期江戸俳壇四大家の一人とされる。
[櫻井武次郎]
白ぼたん崩れんとして二日見る
『石川真弘編『夏目成美全集』全1巻(1983・和泉書院)』
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