1933年製作のアメリカ映画。《カンターの闘牛師》(1932)などで示した喜劇の才能を認められて起用されたレオ・マッケリーLeo McCarey(1898-1969)監督作品。しかし,レオ・マッケリー監督作品としてよりは,マルクス兄弟の映画としてよく知られる作品である。ヨーロッパのフリードニアという架空の国家を設定し,結果的に独裁政治と戦争の狂気,超愛国主義を痛烈に風刺したこの映画は,ヒトラーが権力を握った時期につくられたものであり,ドイツではマルクス兄弟がユダヤ人であることも手伝って第2次世界大戦後まで公開されず,またイタリアでもムッソリーニによって公開を禁止されたといわれる。
独裁者を風刺したという点では,ルネ・クレール監督の《最後の億万長者》(1934)や《チャップリンの独裁者》(1940)の先駆的作品でもあり,スタンリー・キューブリック監督の《博士の異常な愛情》(1964)以前につくられた〈政治と愛国主義をもっとも徹底的に風刺した作品〉ともいわれる。しかし,ハリウッドのタブーであった政治風刺と,超現実的なミュージカル仕立てという破格のスタイルのために不評と不入りを招き,マルクス兄弟は契約切れと同時にパラマウントからMGMへ去ることになった。だがのちには,これをマルクス兄弟の喜劇の代表作とする評価もあらわれ,たとえばイヨネスコなどは,〈不条理劇〉におよぼした重要な影響を認めている。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アメリカ映画。1933年作品。日本公開は翌1934年。常識を破壊するようなナンセンスなギャグの応酬で知られるマルクス兄弟の代表作で、末弟ゼッポZeppo(1901―1979)を含む4兄弟時代の最後の作品でもある。財政難のフリードニア国が新指導者ファイアフライ(三男グルーチョGroucho、1890―1977)を迎えた混乱に乗じて、隣国の大使はフリードニアの乗っ取りを企む。さっそく2人組のスパイ(長男チコChico、1887―1961と次男ハーポHarpo、1888―1964)が送り込まれるが、ファイアフライはスパイらといっしょになって傍若無人な言動を繰り返し、両国はついに戦争へと突入する。監督は無声期から多くの喜劇映画で鳴らしたレオ・マッケリー。グルーチョに変装したハーポがグルーチョ本人と鉢合わせをしてとっさに演じる鏡のギャグが有名だが、これはマッケリーのアイデアとされる。興行的には振るわなかったものの、ファシズムの台頭に揺れる世界情勢を痛烈に皮肉った傑作として現在では高い評価を受けている。
[藤井仁子]
…トーキーとともに登場した俳優たちは,しゃべくりにもマイムにも強いボードビリアンが多くなる。その筆頭は〈マルクス兄弟〉で,不況の世相を反映した,アナーキーで攻撃的なナンセンス・ギャグの数々は,公開当時はむしろ人々を当惑させたといわれるが,代表作《我輩はカモである》(1933)をはじめとするマルクス喜劇は近年見直され,その狂気じみたギャグの連続によって,若い観客の伝説的存在となっている。続く40年代の〈凸凹コンビ〉のバッド・アボット=ルウ・コステロ,50年代の〈底抜けコンビ〉のディーン・マーチン=ジェリー・ルイスは,いずれも初期に軍隊ものを作って人気を博したこと,また三枚目のほう(コステロやルイス)のイメージが幼児的であることにおいて共通している。…
※「我輩はカモである」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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