有島武郎(たけお)の長編小説。前後編2冊。前編の初稿『或る女のグリンプス』は、1911年(明治44)1月から1913年(大正2)3月まで『白樺(しらかば)』に断続的に連載。のちに改題して、徹底的な改稿がなされ、1919年3月『有島武郎著作集』第8集として叢文閣(そうぶんかく)より刊行。続いて後編が書き下ろされ、同年6月刊行の第9集に収める。国木田独歩の前妻佐々城信子(ささきのぶこ)をモデルに、主人公早月(さつき)葉子を仮構して作者の「人生の可能」(広告文)を追求した作品。かつて木部孤笻(きべこきょう)との恋愛結婚に失敗した葉子は、周囲の者が決めた在米中の許嫁(いいなずけ)のもとに向かう。その船中で、野性的な事務長倉地の情熱にひかれ、本能の赴くままに彼に身を任せてしまった。アメリカに上陸せずに帰国した彼女は、世間的な指弾を受け、彼らの生活は社会から隔絶したものとなる。そこに営まれた情愛の世界も、しかし永続せず、倉地がスパイ行為を働くようになり、葉子も健康を害して、崩壊してしまう。1人病室のなかで、葉子は死の影と戦い、ついには悲痛な叫びを残して、その生を閉じる。内部の衝動のままに生きたがゆえに孤立し、それでも止(や)むことなく生きようとした人間の姿が悲劇的に描かれ、また前編に顕著な対社会的な問題意識もみられ、「日本のリアリズム文学の最高作品」(本多秋五)と評される作品である。
[山田俊治]
『『或る女』(岩波文庫・旺文社文庫・角川文庫・新潮文庫)』▽『西垣勤著『有島武郎論』(1971・有精堂)』
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… 以後,林芙美子原作《泣虫小僧》(1938),阿部知二原作《冬の宿》(1938),伊藤永之介原作《鶯》(1938)など一連の〈文芸映画〉のなかで,暗い時代の日本の庶民像を描き出していった。愛国婦人会を創設した明治の女傑の半生を描いた伝記映画《奥村五百子》(1940),ハンセン病療養所で献身する若い女医の実話をリリカルなヒューマニズムで描いた《小島の春》(1940)などをへて,戦後も丹羽文雄原作《女の四季》(1950),森鷗外原作《雁》(1953),有島武郎原作《或る女》(1954),室生犀星原作《麦笛》(1955),織田作之助原作《夫婦善哉》(1955),谷崎潤一郎原作《猫と庄造と二人のをんな》(1956),川端康成原作《雪国》(1957),志賀直哉原作《暗夜行路》(1959),永井荷風原作《濹東綺譚》(1960)と〈文芸映画〉の系列がある。 女を多く描き,フェミニストともいわれたが,そのフェミニズムは,女の美しさよりも無知や貪欲さを凝視する目のきびしさと執念に特色があるといわれる。…
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