評論家。明治41年9月12日、愛知県猿投(さなげ)村(現豊田(とよた)市)に生まれる。第八高等学校を経て東京帝国大学国文科卒業。八高時代よりの友人に平野謙(けん)、藤枝静男がいる。プロレタリア文学運動の末尾に参加、高瀬太郎などの筆名を用い歴史小説論など重厚な評論を発表。転向後は山室静(やまむろしずか)らの『批評』に「村山知義(ともよし)論」(1937)などを寄稿。第二次世界大戦中はトルストイの『戦争と平和』論に没入。戦後は平野や埴谷雄高(はにやゆたか)らと『近代文学』を創刊。創刊号巻頭の「芸術 歴史 人間」は戦後派文学の根源的主張として著名。『小林秀雄論』(1949)、『転向文学論』(1957)も自己の内面との対決を含んだ力作。宮本百合子(ゆりこ)論への準備として白樺(しらかば)派の研究にさかのぼり、『「白樺」派の研究』(1954)を上梓(じょうし)。三巻本(のち一巻本にまとめる)の『物語戦後文学史』(1960~65)は、戦後文学に賭(か)けた著者の強烈な主張と細やかな作品分析が合致した大作で毎日出版文化賞を受けた。長距離目標に向かって悠然と仕事を進める大人(たいじん)的風格の評論家であった。ほかに『遠望近思』(1970)、読売文学賞受賞の『古い記憶の井戸』(1982)がある。平成13年1月13日死去。
[紅野敏郎]
『『現代日本文学大系79 本多秋五他集』(1972・筑摩書房)』▽『『増補「戦争と平和」論』(1970・冬樹社)』▽『『古い記憶の井戸』(講談社文芸文庫)』▽『『本多秋五全集』全16巻・別巻1(1994~99・菁柿堂)』
昭和・平成期の文芸評論家 元・明治大学教授。
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