日本大百科全書(ニッポニカ) 「扇面古写経」の意味・わかりやすい解説
扇面古写経
せんめんこしゃきょう
扇面法華経冊子(ほけきょうさっし)。平安末期(12世紀後半)につくられた装飾経の一つ。扇形の紙面に下絵を施し、その上に経典を書写し、何面かを重ねて中央で折り粘葉綴(でっちょうとじ)に仕立てたもの。もとは法華経8巻と開(かい)・結(けち)経として『観普賢(かんふげん)経』『無量義経』の2巻を添えた10帖(じょう)からなっていた。現在は大阪・四天王(してんのう)寺に5帖、東京国立博物館に1帖(ともに国宝)、およびその他の諸家に何面かが残っている。扇絵はもと115枚あったと思われるが、現存のものは6帖分59枚を数える。各帖の表紙には普賢十羅刹女(ふげんじゅうらせつにょ)の図が描かれているが、料紙の下絵は経典の内容に関係のない風俗画などが描かれている。これらは木版による墨刷りの下図を施し、あるいは墨流しで意匠した上に、作り絵などの大和(やまと)絵で彩色し、さらに金銀の切箔(きりはく)、野毛(のげ)、砂子(すなご)などを蒔(ま)いて、きわめて技巧的な美しさを誇る。構図や人物の表現も変化に富み、平安後期世俗画の一大集成ともいえる。
[村重 寧]