手術創部感染症

内科学 第10版の解説

手術創部感染症(臓器別感染症)

定義・概念
 手術後の手術部位に発生する感染である.現在では,創部だけでなく,術後の体腔の膿瘍なども含めた手術部位感染(surgical site infection:SSI)サーベイランスが広く行われている.SSIの定義のなかで,発症時期については,手術後30日以内またはインプラントが留置されている場合には手術後1年以内(表層切開創では前者のみ)となっている(Mangramら,1999).典型的には,手術後約5日を経過した頃から問題となることが多いが,A群連鎖球菌やクロストリジウム属菌の場合には,術直後から感染所見が認められることがある(Kulaylatら,2012).
分類
 感染の発生部位によって,表層切開部位SSI,深部切開部位SSI,臓器/体腔SSIに分類されている(Mangramら,1999;三鴨ら,2012)(図4-2-3)
原因・病因
 手術部位感染は,術中汚染によるものがおもな原因である.原因菌は,患者の皮膚,粘膜,消化管にいる常在菌であることがほとんどである.
疫学
 日本環境感染学会JHAIS(Japanese Healthcare Ass­ociated Infections Surveillance)委員会では,1998年11月1日から2009年12月31日までの統計期間に登録された162742症例についての報告をまとめている(日本環境感染学会JHAIS委員会,2012).SSIの発生率は,手術全体でみると8.12%であり,直腸19.0%,食道18.1%,肝胆膵17.3%といった消化管の手術で発生率が高かった.一方,帝王切開術,ヘルニア縫縮術,人工膝関節手術などでは1%未満であった.分離菌については,Enterococcus faecalis,MRSAを含む黄色ブドウ球菌,緑膿菌,大腸菌,Enterobacter cloacae,表皮ブドウ球菌などが多かった(図4-5-4).
臨床症状
 感染部位に関連した疼痛などの症状や発熱,発赤,圧痛,腫脹といった炎症の徴候が認められるのが典型的である.創部や留置されたドレーンから滲出液や膿が認められることもある. ただし,上記の所見がないまたは軽度だからといって,感染の可能性を否定することはできない.発熱を起こさない感染症,身体診察では炎症の徴候が認められない身体の深部の感染症が存在することに注意する.
検査
成績
 白血球数増加などの炎症反応がみられることが典型的だが,認められないことも多い.滲出液や膿があればGram染色をすると細菌や白血球が認められることが多い.そして,培養ならびに薬剤感受性検査で菌種の同定や抗菌薬の感受性がわかる.病変が深部切開創や臓器/体腔にある場合は,CTを施行すると膿瘍や軟部組織の炎症所見などが認められることもある.
鑑別診断
 鑑別診断を行ううえで,創部の観察は必須である.創部に異常があるときには,鑑別として,血腫,創部離開,漿液腫などがあげられる.創部に異常がなく発熱しか所見がない場合,非感染性疾患としては無気肺,深部静脈血栓症,輸血後反応,身体の深部の血腫などが考えられる.感染性疾患としては,特異的な症状が認められなかったり,見落とされがちな疾患である尿路感染症,中心静脈カテーテル関連菌血症,胆道系感染症,副鼻腔炎,偽膜性腸炎などがあげられる(Kulaylatら,2012).
経過・予後
 SSIに罹患すると1週間以上入院期間が延びるといわれており,さらに死亡率が通常の2~11倍に上がるといわれている(Andersonら,2008).
治療
 感染部位を観察・評価し,壊死組織があればデブリドマン,膿瘍があればドレナージを行うことが最も大切である.また,抗菌薬の投与も必要になる.滲出液や膿のGram染色は抗菌薬を選択するうえで参考になる.検体が取れない場合には,MRSAを含めたブドウ球菌に効果を発揮するバンコマイシンを基本とし,手術をした部位によって,緑膿菌などの耐性度の高いGram陰性桿菌や嫌気性菌をターゲットとした抗菌薬を追加投与するかを決める.培養や薬剤感受性検査の結果が出たら,必要に応じて最適な抗菌薬へと変更する.
予防
 SSI予防のためのpractical recommendationが,米国医療疫学学会(SHEA)と米国感染症学会(IDSA)合同で2008年に発表されている(Andersonら,2008).血糖管理や禁煙の必要性,除毛がやむを得ず必要な場合には剃刀ではなくバリカンを用いること,術前にほかの感染症を治療しておくこと,医療従事者の適切な術前の手洗い,適切な手術部位の消毒,手術時間をなるべく短くすることなどがあげられている.ほかにも,予防的抗菌薬投与について,執刀1時間以内に投与し,術後は24時間以内(心臓外科手術は48時間以内)に中止することなどが推奨されている(Andersonら,2008).日本でも投与期間は以前より短くなってきており,術後48時間以内が推奨されている(三鴨ら,2012).抗菌薬の選択については,無菌部位や菌が非常に少ない部位を扱う手術では黄色ブドウ球菌や連鎖球菌をおもなターゲットに第1世代セフェム系薬のセファゾリン,下部消化管などを扱う場合には,Gram陰性桿菌や嫌気性菌も考慮してセフメタゾールやフロモキセフがおもな推奨となっている(三鴨ら,2012).[松永直久]
■文献
Anderson DJ, Kaye KS, et al: Strategies to prevent surgical site infections in acute care hospitals. Infect Control Hosp Epidemiol, 29: S51-S61, 2008Kulaylat MN and Dayton MT: Surgical complications. In: Sabiston Textbook of Surgery (Townsend CM, Jr., Beauchamp RD, et al) , pp281-327, Elsevier Sanders, Philadelphia, 2012.Mangram AJ, Horan TC, et al: Guidelines for prevention of surgical site infection, 1999. Infect Control Hosp Epidemiol, 20: 247-280, 1999.
三鴨廣繁,竹末芳生,他:術後感染予防.JAID/JSC感染症治療ガイド2011(JAID/JSC感染症治療ガイド委員会編集),pp182-188,ライフサイエンス出版,東京,2012.日本環境感染学会JHAIS委員会:手術部位サーベイランス部門,2012.
http://www.kankyokansen.org/modules/iinkai/index.php?content_id=5

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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