エネルギー資源(読み)えねるぎーしげん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エネルギー資源」の意味・わかりやすい解説

エネルギー資源
えねるぎーしげん

現代社会の血液ともいえる石油、電力、天然ガスなどのようなエネルギーをつくりだす物質。従来は、軍艦や航空機の燃料、核兵器の原料として重要な戦略物質であり、20世紀二度の世界大戦の原因の一つに、エネルギー資源をめぐる列強の争奪があったといわれた。最近では、産業や国民生活の発展を支える基礎物質として重視される。とくに、1973年と79年の二度にわたる石油危機(オイル・ショック)の結果、(1)石油価格・エネルギー価格の高騰、(2)資源国の政治・軍事の不安から発生する供給途絶のおそれ、という新しい問題が出てきて、エネルギー供給が世界経済や国民生活を左右する大きな要因となり、石油以外の代替エネルギーの開発や、多様なエネルギー資源の有効利用が、どの国にとってももっとも重要な課題の一つとなった。

[富舘孝夫]

エネルギー資源の分類

エネルギー資源は、すでに使われている在来型エネルギーと、これから開発・商業化される非在来型の新エネルギーの資源とに大別できる。在来型には、石油、天然ガス、石炭(以上の三つは化石燃料という)、水力、原子力の五つが主要な資源であるが、発展途上の国ではいまでも薪(まき)、炭、動物糞(ふん)、農作物かすなどが大量に使われている。石油危機以来、石炭、天然ガス、原子力などの在来型代替エネルギーへの転換が進んでいる。

 非在来型(新エネルギー)資源は、再生不能エネルギーと再生可能エネルギーとに分類される。これらのなかには、風力のように新しい技術のもとで再利用されるものもあるが、大部分はやっと商業化の端緒についた資源や、これから技術開発が行われる資源である。再生不能エネルギーには、オイルシェールオイルサンドなど石油類似物質を含む資源(合成燃料油の原料)があるが、石炭を液化またはガス化した合成石油、合成ガス、メタノールメチルアルコール)もここに分類されている。これらは化石燃料資源であり、いったん使ってしまうと永久に地球上から消えてしまう。

 再生可能新エネルギーには三つのタイプがある。第一は、太陽熱(発電、冷暖房)、太陽光(電池)、風力、波力、海水温度差発電、地熱(ちねつ)などで、広い意味でソーラーエネルギーとよばれることもある。第二は、農作物や動物廃物などからつくられるアルコール燃料(エタノール)やガス(メタンガス)などのバイオマスエネルギーである。第三は、ほとんど無尽蔵にあるという意味で、核融合水素エネルギーを再生可能資源に入れる場合が多い。

[富舘孝夫]

エネルギー資源量

地球には、まだ大量のエネルギー資源が存在する。たとえば、石油については、すでに発見され、現在の価格と技術で商業生産の可能な確認埋蔵量は約900億トンである。生産量は年間約30億トンだから、30年分が地下在庫として存在している。しかし、このほかに、まだ発見されていない回収可能資源を加えると、究極可採埋蔵量は2400億トンもあるとされる。さらに、生産技術が進歩したり、価格が上昇すれば、利用可能な資源量はもっと増える。

 このように、エネルギー資源量は一般に、価格と技術の条件によって変化する。しかしながら、化石燃料やウランが有限であり、再生不能であることは確かである。現在いえることは、石油とほぼ同じ量の天然ガス資源があるほか、確認埋蔵量だけで石油の約4倍の石炭資源が存在する。原子力については、石油換算約250億トンの確認埋蔵量、約580億トンの究極可採埋蔵量のウランがあるが、これはすでに実用化されている軽水炉で計算したもので、もし自ら燃料を増殖するといわれる高速増殖炉原子力発電で計算すれば、資源量は60~100倍に増加する。

 非在来型エネルギーの資源量については、まだ科学的にはっきりした推定が出されていない。現在の手堅い試算を紹介すれば、石油換算約3500億トンの回収可能なオイルシェール、オイルサンドの埋蔵量が知られている。再生可能の新エネルギーの資源量については意味のある計算自体がまだできない。たとえば、地球上に注ぐ太陽エネルギーは毎年石油換算で約70兆トンに達するが、もっとも楽観的な見通しでも、2000年において石油換算5000万トンの利用がせいぜいであろうとされている。バイオマスエネルギーについてもほぼ同様なことがいえるし、核融合や水素エネルギーに至っては20世紀中の実用化は無理とされている。

[富舘孝夫]

エネルギー資源の開発

このように、資源量は多量にあるにもかかわらず、エネルギー危機などの重大な問題が発生するのは、エネルギー資源の開発・利用に特別な困難が伴うからである。まず第一に、長いリードタイム(先行期間)が必要である。すでに実用化されている在来型エネルギーの場合でも、資源を発見するのに必要な時間のほか、生産や輸送の設備を建設し、最終的に利用できるまで5年から10年もかかる。第二に、莫大(ばくだい)な資金が必要なうえ、非在来型エネルギーになるほど生産コストが高いという問題がある。第三に、非在来型新エネルギーの場合は、まだ実用化のための技術開発が未完成であり、量としても石油など在来型に比べれば、当分の間ほんのわずかしか利用できない。第四に、とくに石油、天然ガスについては、資源が中東など発展途上国に著しく偏在しており、その生産、輸出、価格などが資源保有国の政策に大きく左右される。

[富舘孝夫]

世界のエネルギー需給構造

長年にわたり世界のエネルギー供給の王座を占めてきた石炭は、第二次世界大戦後、低廉豊富な石油にその地位を脅かされた。石油は衣食住、交通、産業のあらゆる分野に進出し、1960年代後半に石炭を抜き、第一次石油危機直前の73年には一次エネルギー消費の半分近くを占めるに至った。しかし、その後発生した二度の石油危機によって、原油価格は1バレル(約159リットル)当り2ドルから34ドルへと20倍近くも高騰したことと、石油供給の不安定性とが原因になって、石油消費の伸びは鈍化し、第二次石油危機(1979)以降の3年間は大幅な減少を記録した。石油価格高騰は他のエネルギー価格の上昇をもたらし、エネルギー消費の伸びは全体として65~73年の年平均4.6%から、73~83年には1.6%へ著しく低下した。

[富舘孝夫]

エネルギーと経済の相互関係

このような変化の要因は、価格を媒介して作用する経済活動とエネルギー消費の相互関係から分析できる。まず第一は代替効果である。石油価格が上昇すると、企業や家庭はコストの安い他のエネルギーへ転換する。第二は節約効果である。価格が上昇すると、まずむだ遣いをやめたり、がまんするなど単純な消費節約が働く。ついで、使用機器や生産工程の改善による利用効率の向上が図られる。これらをまとめて省エネルギーとよばれるが、国民総生産(GNP)単位当りのエネルギー消費原単位の改善という形で表される。OECD(経済協力開発機構)は、1973年から83年の間に先進工業国のエネルギー消費原単位は20%以上も改善されたと試算している。

 第三は所得効果である。これは、石油価格の高騰が世界経済の不況を招き、さらに成長力を低速化させ、そのため石油エネルギー消費の伸びが鈍ることである。第一次石油危機の結果、それまで年5%の成長であった世界経済(日本経済は10%)は3%(同5%)へ低下し、第二次石油危機後さらに1~2%(同3~4%)へ低下した。これら三つの効果の測定はきわめてむずかしいが、1973~80年の先進工業国における石油消費減少の50%は所得効果、30%は節約効果、20%は代替効果とみてよい。これらの効果と、鉄鋼、石油化学などエネルギー多消費産業から、機械、エレクトロニクスなどエネルギー少消費産業への産業構造転換の効果とをあわせて、経済活動とエネルギー消費の関係をみる指標として、エネルギー消費の対GNP弾性値がよく使われる。石油危機以前の弾性値は1.0を上回る傾向にあったが、危機以後は0.5~0.6へ低下し(GNPが1%増加するのにエネルギー消費は0.5~0.6%の増加ですむ)、この傾向が今後しばらく続くとみられている。ただし、発展途上国の弾性値は依然として1.0を若干上回っており、石油消費の増大も続いている。

[富舘孝夫]

逆オイル・ショック

1980年代に入ると、エネルギー問題に逆オイル・ショックという新しい深刻な事態が現れた。逆オイル・ショックは当初、前述のような石油需要の減少と、80年1月をピークとする原油価格の低迷、軟化傾向によって産油国が大打撃を受け始めた現象をさした。しかし、産油国石油収入減少は、(1)工業化計画挫折(ざせつ)、プロジェクト中止、産油国向け輸出減少をもたらし、(2)オイル・マネーのリサイクル(余剰外貨の再投資)を中断させ、(3)産油国の政情不安を増大させ、(4)世界不況からの回復を遅らせているのみならず、(5)需要低迷→価格低迷が代替エネルギー開発や省エネルギー投資の減退を引き起こしている(83年3月には、1バレル5ドルの値下げが行われた)。これらの結果、景気の回復が進めばふたたび石油需要の増加と原油価格の上昇をもたらすおそれが心配され、国際エネルギー機関(IEA)は1990年代に入ると石油不足と価格高騰が再来する可能性があると警告している。ともかく、世界経済が再活性化に向かう過程で、オイル・ショックと逆オイル・ショックが繰り返される不安が依然として残っていることは否定できない。

[富舘孝夫]

日本のエネルギー問題

わが国は国内にエネルギー資源が乏しいため、1960年代の高度成長期に輸入石油依存型の供給構造が形成された。60年に38%であった石油は、73年には76%強へシェアを拡大し、石炭は逆に42%から16%へ激減した。石油の99%は輸入であった。しかも、そのうち80%は中東からの輸入であり、日本は先進国のなかでもっとも脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれていた。

 このため、わが国は石油危機以降、石油依存度の引下げと供給源の地理的分散化、および省エネルギーとを最大の政策課題とし、官民あげて努力してきた。その結果、1983年には石油のシェアは61.6%に低下し、中東石油への依存も約65%に下がった。また、73~83年の10年間に、日本のGNPは35%も拡大したのに対して、エネルギー消費はわずか2.2%しか増加していない(石油は18%減少)。エネルギー消費原単位は同期間にGNP100万円当り石油換算2.41トンから1.71トンへ大幅に改善された。これらは先進工業国のなかでももっとも良好なパフォーマンス(成果)であると国際的に高い評価が与えられている。

 しかしながら、エネルギー問題は、1980年代の脱石油への移行期に差しかかって、わが国にとってはこれからが正念場である。というのは、これまでの成果は、代替エネルギーへの転換にしろ、省エネルギーにしろ、比較的容易に、かつ経済的に有利(そうしたほうが安い)な分野で進められたのであったが、今後は、新しい技術開発と巨額な投資を必要とし、経済性にも問題が生ずる分野と取り組まねばならないからである。しかも、経済成長の低速化と財政難という悪条件が控えている。

 政府は1983年11月、新しい長期エネルギー需給見通しを発表し、1995年までに石油依存度を48%、2000年には42%へ下げるという目標を打ち出した。しかし、この目標は、原子力、輸入一般炭、LNG(液化天然ガス)、新エネルギーの導入について非現実的に大きい数量を掲げていること、経済成長についても4%と高めのため、総エネルギー需要量が大きすぎるという批判を受けている。

[富舘孝夫]

『日本エネルギー経済研究所著『日本エネルギー読本』(1982・東洋経済新報社)』『生田豊朗著『茶の間のエネルギー学』(1981・日本経済新聞社)』『資源エネルギー庁監修『資源エネルギー年鑑』各年版(通産資料調査会)』『エネルギー問題市民会議編『市民のためのエネルギー白書』(1982・日本評論社)』『富舘孝夫著『エネルギー産業』(1980・東洋経済新報社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エネルギー資源」の意味・わかりやすい解説

エネルギー資源
エネルギーしげん
energy resources

人間生活において利用でき,自然界に存在するエネルギー源のこと。太陽からの放射は光源として太陽電池に,熱源として太陽熱湯沸器にそれぞれ利用され,また流水の運動エネルギーを水車や水力発電に利用するなどの例は,いずれも直接利用できる種類のものである。 1970年代の石油危機などをきっかけに海洋の海流,潮汐などの利用,また地熱の利用なども盛んに研究され,一部は試験操業の段階に入ったものもある。一方,石炭,石油,天然ガスなどの類は,燃焼させることによってエネルギーを出すいわば間接的な資源であるが,狭義の物質としてのエネルギー資源といえよう。これらの物質は主として地下に埋蔵され種々の方法で埋蔵量が推定されているが,人間が使用する量の増加に伴ってやがて枯渇することが予想され,新しいエネルギー資源を捜す必要がある。原子力エネルギーはこの必要性にこたえたものの1つである。核燃料物質の探鉱,採掘,効率のよい精製法などのほか,核変換によりウランから生成するプルトニウムの有効利用,さらには核融合エネルギー利用のための技術開発に多大の努力が払われている。しかしいずれのエネルギー資源も長所・短所があり,しかも有限であるため,今後長く人間が生活をするためには新たなエネルギー資源の発見と利用法の改善のほか,各種エネルギー資源のバランスのとれた開発,利用が必要となる。

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