改訂新版 世界大百科事典 「折板構造」の意味・わかりやすい解説
折板構造 (せつばんこうぞう)
folded plate structure
平らな板を組み合わせて構成する構造体を折板構造と呼び,(1)床や壁など,平面状の構造を屛風状に折り曲げるもの,(2)曲面をいくつかの平板で置き換えるものの二つに大別することができる。平らな板の曲げに対する剛性は,板厚の3乗に比例し,薄くなると曲がりやすくなる。屛風状に折り曲げることによって剛性が増し(厚さを増加させるのと同じ効果),曲がりにくくなる。このことから,(1)の折板構造は,シェル構造と同様に,形態を利用して荷重に対する抵抗能力を付加する構造で,形態抵抗構造に属するといえる。シュロの葉,扇子や折り紙細工は身近にある折板構造の例である。(1)の折板構造の力学性状は,平板と壁板との相互作用で成立する立体構造であり,その形態抵抗能力によって大空間構造としても用いることができる。同時に,凹凸のある表面によって陰影の変化を生かした魅力ある造形を作ることも可能である。建築構造の中に,折板構造という新しいことばを生み出した記念すべき建物は1958年のユネスコ本部(パリ)であった。日本においても,1950年代後半から鉄筋コンクリート折板構造が建てられるようになってきているが,その端緒を切り開いた建物は,愛媛県の今治市公会堂(1958)と東京都の世田谷区公会堂(1959)である。円筒シェルを並列に並べた波板シェルは,(1)の折板構造と同じ構造システムといえる。
(2)はシェル構造の変形であり,滑らかな曲面を平面と直線で再構成したものである。曲面を多くの平面で分割することは,数学あるいは計算機を利用した構造解析(有限要素法など)においては,しばしば用いられる曲面近似法であり,(2)の折板構造は,その方法を積極的に利用するもので,マイコンなどを用いた造形デザインとしても発展しつつある。直線は曲面の広がりの中に明確な仕切りを,言い換えれば,曲面に輪郭を与え,独特の造形を現出することになる。正多面体やそれから派生する不正多面体は,形の単純さと神秘的な構成によって古代から人々の関心を誘ってきた。ピラミッドはその典型例である。これらの多面体もまた,折板構造として構成することができる。その代表的な作品として,現代構造の巨匠であるE.トロハによる石炭貯蔵タンク(マドリード)があげられる。
執筆者:半谷 裕彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報