改訂新版 世界大百科事典 「指腹婚」の意味・わかりやすい解説
指腹婚 (しふくこん)
zhǐ fù hūn
旧中国における婚姻風習。懐胎している婦人の腹を指し,その親同士が子の出生にさきだって取り決める婚約をいう。単に指腹ともいう。妊娠出生以前に,生まれてくる子の将来の婚姻を親が約束する事例は,すでに後漢の時代にあるが,指腹の語の用例は南北朝時代に最初にみられる。これは,家柄・人物を重んじる貴族社会の中で生じた特異な早婚であった。しかし指腹の風習は,唐をへて宋・元になると俗間に広く行われるようになり,識者によって非難されたり,法律によって禁止の措置がとられるまでになった。その後,明・清の小説や戯曲,さらに解放前の農村慣行調査などによってもその事例が多く見いだされるように,指腹の風はトンヤンシー(童養媳)などとともに旧中国の社会に根強く存在した。主婚者たる祖父母・父母の同意を必須として成立した旧中国の婚姻制度では,当事者の意志とは関係なく,家族や親族主体で婚約が取り決められるのが通常であり,指腹婚はその極端な例の一つである。なお〈指腹割衿(きん)(衫(さん))〉と熟語で呼ばれる〈割衿(衫)〉は,衫襟(さんきん)すなわち幼児のじゅばんのえりをお互いにさいて両家がそれぞれ所持して婚約のしるしとする風習で,〈割衿婚〉〈割衫婚〉といわれる。元代以降,一般に行われた幼婚であるが,指腹婚のごとく出生前に取り交わされる場合もあった。
執筆者:須山 努
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報