支保(読み)しほ

精選版 日本国語大辞典 「支保」の意味・読み・例文・類語

し‐ほ【支保】

  1. 〘 名詞 〙 弱い人や物などをささえ保護すること。また、背後で支援すること。
    1. [初出の実例]「夫は〈略〉妻を支保するの義務を負ふ」(出典:明六雑誌‐八号(1874)妻妾論・一〈森有礼〉)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「支保」の意味・わかりやすい解説

支保
しほ

鉱山、トンネル工事などにおいて、落盤、落石、土砂崩落などを防止するために施工される、天井および坑壁を支持する構造物をいう。

[木下重教]

種類

坑道やトンネルの支保工としては、木材支保、鋼材支保、覆工、ロックボルト工法の4種類がある。木材支保は、坑木を用いて行うもっとも簡単な支保で、三つ枠、合掌枠、モル枠、二重枠など種々の方法がある。しかし使用例からみると三つ枠が圧倒的に多い。これは、2本の木柱に1本の笠木(かさぎ)をのせて門形に組み、くさび、矢木で周囲の岩盤や隣接枠に固定して支保するものである。軟弱な岩盤では、周囲に差矢、矢板掛けなどを行って破砕ずりの枠間漏れを防ぐ。鋼材支保は、鋼材(古レール、IまたH型鋼)をアーチ状に組み合わせて支柱とするもので、2本の部材を頂上で連結し、継ぎ目には適当な継ぎ目板を用いてボルト止めする方法が普通である。覆工は、コンクリートの場所詰め、コンクリート・ブロックまたはれんが積みなどによって、坑道を被覆する工法である。トンネル、鉱山における通洞立坑など半永久的に使用される坑道の支保に採用される。ロックボルト工法は、坑道掘削後、天盤、側壁、場合によっては床盤に削孔し、ボルトを打ち込んで岩盤を緊定し、岩盤の崩壊、分離を防ぐ工法である。ボルトを岩盤に固着する方法には、くさび式、エキスパンションシェル式、および樹脂を流し込んでボルトを孔壁に全面接着するなどの方式がある。最近はNATM(ナトム)(new austrian tunnelling method)工法といって、ロックボルト打設や仮支保を施したのち、ただちにモルタルやコンクリートを吹き付けて坑道を被覆し、適当な時期に完全覆工を行う工法が普及してきたが、これは軟弱な岩盤の坑道維持に非常に効果があることが認められている。

[木下重教]

炭鉱における支保

炭層を採掘している炭鉱では、採掘とともに移動する採炭面(採炭切羽(きりは)という)を維持することはきわめて重要であり、切羽支保として独得の発達を遂げてきた。1950年ころまでの切羽支保は主として坑木が用いられ、採掘もピック、発破による場合がほとんどであったが、その後カッペ鉄柱による切羽支保が導入され、採掘もコール・カッター、ホーベルなどの機械が利用されるようになった。最初の鉄柱は摩擦鉄柱であったが、油圧機器の進歩に伴って油圧式鉄柱にかわり、最近ではさらに進歩し、油圧操作によって移動できる自走支保とよばれる支保が開発され、採炭切羽の無人化と完全機械化に貢献している。自走支保には、数本の油圧鉄柱とカッペを組み合わせた組枠、およびカッペのかわりにシールドを用いたシールド枠がある。しかし自走枠を用いた切羽の完全機械化は、炭層の傾斜が30度以下の緩傾斜層に限られ、炭層傾斜が30度以上の急傾斜層ではまだ達成されていない。わが国には急傾斜の炭層がかなりあり、これらの炭層を安全に採掘するには、急傾斜採炭切羽の支保の機械化は採掘の機械化と並んで重要な課題である。

[木下重教]

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改訂新版 世界大百科事典 「支保」の意味・わかりやすい解説

支保 (しほ)
timbering

支保工ともいう。トンネルを掘削してから覆工(トンネル内面をコンクリートなどで固めること)するまでの間,掘削した断面を確保し,地山の崩壊や変形を防ぎ,安全に作業ができるように地山を支持する構造物。木製支柱式支保,鋼アーチ支保,ロックボルト,吹付けコンクリートなどがある。木製支柱式支保は1955年ごろまで用いられたが,現在では地質不良個所や崩壊個所の応急処置に使われる程度である。鋼アーチ支保はH形鋼や鋼管などをトンネル断面にあわせてアーチ形に加工し,適当な間隔(0.9~1.5m)に建て込むもので,支保どうしはボルトや内ばりで強固に連結される。地質が悪くなれば建込間隔をつめて対処できるし,覆工コンクリートの中に埋め込まれるので補強の役にも立つ。ロックボルトはトンネルの坑壁に適当な間隔で穴をあけ,各穴に長さが3~6mのボルトを挿入し,地山に定着させることで地山自身の強度を高め,崩壊や変形を防ごうとするものである。鋼アーチ支保のように地山を内側から支持する構造物とは本質的に異なる。形式は先端定着形と,軟岩をはじめ,いろいろの地質にも使える全面接着形とがある。岩塊をつり下げる効果や,層状の岩を縫いつけて一つのはりにする効果,地山を一体化してアーチとしての働きをさせる効果などがある。吹付けコンクリートはセメント,砂,砂利,急結剤,水などをパイプで圧送し,ノズルから圧縮空気の力で高速噴射し地山に接着させるものである。掘削後すぐに吹き付ければ,地山の変形,ひびわれ,風化などの劣化を防げるし,アーチコンクリートとして荷重も負担しうる。また地山の変形を抑えるので,ロックボルトと同様に地山自身の強度を高めるなどの効果がある。近年,全面接着式ボルトの効果が十分に確認されたことと,トンネル掘削技術の一つであるNATM(ナトム)(new austrian tunnelling methodの略)工法の発展に伴い,ロックボルトと吹付けコンクリートは新しい支保として急速に用いられるようになった。なお,型枠のせき板を所定の位置に固定するための仮設構造物も支保,あるいは支保工と呼ばれる。
トンネル
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百科事典マイペディア 「支保」の意味・わかりやすい解説

支保【しほ】

支保工とも。トンネル工事等で,コンクリートで覆工するまで掘削面が崩れないよう土圧を支えるための仮構造物。鋼アーチ支保,ロックボルト,吹付けコンクリートなどがある。また,一般のコンクリート打設作業で型枠(かたわく)を固定するものも支保と呼ぶ。
→関連項目採鉱採炭

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「支保」の意味・わかりやすい解説

支保
しほ
support; timbering

支保工。型枠,山止めなどの土木工事でコンクリート加重を支え,固定するための支柱,間柱,斜柱,貫柱,繋材などの支持部分。またその作業。おもに工作物の保守,維持と作業場の保安などの目的で施される。特にトンネル掘削工事では,覆工までトンネル空間を保持する仮設構造物として種々の工法がある (支柱式,アーチ式,シールド,ニードルビームなど) 。鉱山,炭鉱などの坑道,切羽に施される支保を特に坑内支保と呼ぶ。

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