政治心理学(読み)セイジシンリガク(その他表記)political psychology

デジタル大辞泉 「政治心理学」の意味・読み・例文・類語

せいじ‐しんりがく〔セイヂ‐〕【政治心理学】

人間パーソナリティー心理という側面から政治を分析する学問

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「政治心理学」の意味・読み・例文・類語

せいじ‐しんりがくセイヂ‥【政治心理学】

  1. 〘 名詞 〙 政治に関連する事象について心理学的に研究する学問。フランスのル=ボンを始祖とする。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

最新 心理学事典 「政治心理学」の解説

せいじしんりがく
政治心理学
political psychology

政治事象にかかわる心理学の一分野。個人の行動を超えるコミュニティ,社会,国家,世界といったマクロな単位の変化に対して,個人が影響を及ぼす,ないしは影響を及ぼされる過程に焦点を当てるアプローチである。またその中で権力・勢力の配分やそれらを行使する政治行動に関心をもち,さらに配分のルール(法や政策)やそのルールの生成を検討する。より具体的な研究の領域はいくつかに分かれる。

 投票行動voting behaviorに代表される政治参加行動political participationや政治的寛容性political toleranceを個人レベルで扱う分野は,個人の心を分析の単位とする点で心理学から理解しやすい。投票行動を意思決定の特殊タイプとみなし,意思決定の規定要因として,投票者が社会全体の変化をどう見るかというソシオトロピックsociotropicな認識や,政治家や政府といったアクターの能力の判断が重要だという知見はその一つである。同様に価値観やイデオロギーが個人の行動に影響を及ぼすのも,個人の心理という点から容易に解釈できる。その延長線上で政党支持の効果もとらえられる。政党とは特定の価値やイデオロギーの社会的実現を図る団体であると解釈しうるからである。さらに近年急速に伸びているのが感情心理学の影響である。政治はときに個人の人生や社会の方向性を変えてしまう。また権力に対して感情が伴う。このことで政治や政治家に対して感ずる感情が個人の政治行動の重要な決定要因であることが知られ始めている。

 こうした個人の行動や信念に及ぼす影響過程を対人的なコミュニケーションマスメディア,インターネットにおいて検討する分野も盛んである。早くも1940年代にアメリカでマスメディアが大統領選挙に与える効果の研究がなされており,そこで見いだされたのが予想外にも有権者の周囲の対人的なオピニオンリーダーopinion leaderの影響力の強さであった。マスメディアの効果の研究は,その後個人の認知過程にメディアがどのように関与するかを検討し膨大な研究を生み出している。対人的なコミュニケーションの研究は,1990年代以後のソーシャル・ネットワーク研究と結びついて,市民が自分の周囲にもつ対人的な情報環境がいかに政治参加に効果をもちうるかを精緻に研究している。

 一方,マクロな単位の政治と個々の市民の間を媒介する組織・団体・集団内のダイナミックな過程を検討する分野では,社会心理学における集団や集団間の心理学の成果が影響力をもっている。ここでは,集団間の相互作用と集団のアイデンティティ,外集団に対する偏見や差別の研究が重きを占めるが,アイデンティティの負機能や偏見や差別からの改善が大きな焦点である。さらに政治や行政に対する信頼を対象とする分野が20世紀末から大きく注目を浴びている。先進諸国での政府や政治家,行政官に対する信頼の低下が一様に顕著で,そのことが政治や行政の正統性を突き崩し,民主主義社会の根底を揺がせかねないからである。なお,首相・大統領といった政治的リーダーと市民との間の相互作用にかかわるリーダーシップカリスマの研究分野はリーダーシップやパーソナリティ研究の応用分野として独立して発達している。 →社会心理学 →マスメディア →世論
〔池田 謙一〕

出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「政治心理学」の意味・わかりやすい解説

政治心理学
せいじしんりがく
political psychology

政治を人間のパーソナリティーや心理という角度から分析しようとするアプローチをさす。これまで、政治学は政治を対象として、これをさまざまな角度から考察する個別科学として発展してきた。一方、人間のパーソナリティーや心理を社会との関連で分析する個別科学として発達したものが社会心理学である。政治心理学とは、この政治学と社会心理学の交錯する領域に成立するところの政治学、もしくは、社会心理学の下位科学と考えることができる。

 現代政治学は、1920年代のアメリカでメリアムを中心とするシカゴ学派の政治学の科学化を指向する革新運動、いわゆる行動論革命を通じて発展してきた。彼らは分析の基本的単位に政治行動を据えたが、それは当時、隆盛を極めたアメリカ心理学におけるワトソン流の行動主義に由来するものであった。また、直接観察できない刺激とこれに反応する行動を媒介する心の測定、すなわち認知、評価、選好等から構成される心理学的態度研究やフロイトの精神分析学の影響は、この学派の共通の特色であった。もっとも、このような研究は政治学の領域では政治行動論political behaviorとよばれ、行動科学の成立と相まって今日では、政治学における行動論的アプローチとよばれることも多い。

 したがって、政治心理学ということばは、欧米ではどちらかといえば、社会心理学者が社会心理学的分析手法を用いて政治の分析を試みた社会心理学の下位科学をさす場合が多かった。1910年『政治心理学』La psychologie politiqueと題する最初の書物が、社会心理学の父、フランスのル・ボンによって著されたし、第二次世界大戦後、1954年に発刊されたその後の本格的政治心理学の書『政治の心理』The Psychology of Politicsもイギリスの心理学者アイゼンクの手によるものである。もっとも日本では1914年(大正3)政治学者稲田周之助(いなだしゅうのすけ)(1867―1927)によって『政治心理学』という本が出版され、第二次世界大戦末期、戦火のなかでまとめられ、戦後の政治学再建の口火を切る『政治心理学』を著したのも政治学者中村菊男(1919―1977)であった。アメリカでもH・ラスウェルやF・I・グリーンスタインFred Irwin Greenstein(1930―2018)など政治学者の手による政治心理学の研究成果も多い。政治心理学の主要な研究対象としては、大衆社会、リーダーシップ、政治的パーソナリティー、イデオロギー、政治的社会化、世論、政治宣伝といった諸領域をあげることができる。

[堀江 湛]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「政治心理学」の意味・わかりやすい解説

政治心理学
せいじしんりがく
political psychology

政治的行動,たとえば選挙,世論操作,大衆運動,戦争あるいは平和時における外交などについて研究する社会心理学の一分野。政治的行動に関連のある態度,コミュニケーション,グループ・ダイナミックス,社会的性格などが扱われる。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

仕事納

〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...

仕事納の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android