社会化(読み)しゃかいか(英語表記)socialization

翻訳|socialization

精選版 日本国語大辞典 「社会化」の意味・読み・例文・類語

しゃかい‐か シャクヮイクヮ【社会化】

〘名〙
① 人間の相互作用、相互影響によって集団や社会が形成される過程。
② 人間が他者との関係の中で既成の社会に適応同化してゆくこと。
③ 私的・個別的な存在を公的・集団的な存在にすること。特に、社会主義による生産の社会主義化をいう場合もある。
※憲法講話(1967)〈宮沢俊義〉五「従来の自由国家観の伝統を尊重しつつ、それを社会化した社会国家観にもとづく政治体制ワイマール憲法に代表されるような)が」

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デジタル大辞泉 「社会化」の意味・読み・例文・類語

しゃかい‐か〔シヤクワイクワ〕【社会化】

社会が形成されていく過程。
個人が、集団の構成員となるために必要な意識を身につけていく過程。
生産手段などを、個人の所有・管理から社会の所有・管理へと変えること。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「社会化」の意味・わかりやすい解説

社会化
しゃかいか
socialization

人間が、集団や社会の容認する行動様式を取り入れることによって、その集団や社会に適応することを学ぶ過程をいう。社会化は、基本的には学習である。諸個人は、他の人々との相互作用を通して、行動の仕方、ものの考え方、または感情の表出や統制の仕方を学習するが、このような社会的場面における学習の過程を社会化というのである。

[柴野昌山]

社会化の3段階

社会化は、人間のライフ・サイクルにおいてみるとき、幼年期社会化、青年期社会化、および成人期社会化の3段階に分かれる。

(1)幼年期社会化 人間が生まれてから乳児期、幼年期を経て児童期に達するまでの期間に進行する社会化である。人間のパーソナリティーを基本的に決定する時期にあたるという意味で重要な基礎的過程であり、従来の実証的社会化研究も主としてこの時期の社会化に焦点を置いて行われてきた。幼年期社会化が進行する場面は、まず第一に家族集団である。そこでは主として母親が子供にとっての「有意味な他者」であり、子供は母親に対する「同一視」を通して直接的には、その母親に特有な価値・態度様式を取り入れる。だが同時に子供は、母親の背後にあるその社会の文化の型や共有的な行動の様式を取り入れることによって、その社会にふさわしい成員性を獲得するのである。したがってこの意味で、母親および保護者は、その社会における「社会化の代行者」であり、子供は社会化の被作用者である。この時期の社会化過程は、連続的に分節化された段階、すなわち口唇期、肛門(こうもん)期、エディプス期、潜在期を経過するが、このなかで一貫してたいせつな社会化の課題は、母親との一体関係からの自立と性的役割をとることについての学習である。

 幼年期社会化の第二の場面は仲間集団である。幼児は、遊びやゲームを通して他者の期待を取り入れ、社会的期待にこたえる方法を学習するが、学童期に入ると自発的にギャング・グループをつくり、そのなかで形成された独自の規範(掟(おきて)・決まり)に従うことから協同性や道徳性を身につける。すなわち、子供は幼年期社会化の過程で、その子供なりの個性を形成するとともに、多様な社会関係を通して社会性を獲得するのである。

(2)青年期社会化 思春期から青年期を経て一人前の大人へと成長していく過程の社会化である。この時期の最大の達成課題はアイデンティティの獲得である。アイデンティティとは「社会的価値と個人的価値の独自的結合による自我一体性の感覚」(E・H・エリクソン)であるが、これは、一面において「仮面をかぶった自己」を反省して「真の自己」を発見しようとする過程のなかで獲得されるとともに、他の面では、他人の目に映った自己像を仲間や同時代の人々の反応によって確かめたり、他者の期待を取り入れることによって形成される。

(3)成人期社会化 この概念は、従来の社会化研究が人生の初期段階でのしつけや学習に重きを置くのに対して、社会化を生涯にわたって生起する役割学習であるとする考え方に基づいて出てきたものである。成人期社会化の主要な課題は、人が社会生活において状況の要求を正確につかみ、適切に行動することができるような成人役割の学習と状況的適応の習得である。さらに成人期の社会化は、青年期までに形成された人格的統一を改めて再組織し直すという側面も含んでいるから、「再社会化」の過程であるともいわれる。だが再社会化は、成人期だけに限られるわけでなく、青年期後期においても出現する。なぜなら社会構造が複雑になり、産業化に伴う技術革新の進展とともに高学歴化が進むと、青年たちは以前よりも長い間学校教育を受けることになり、このようにして青年期が延長され、ユース期またはヤング・アダルト期とよばれるような時期が成人期までに介在することになる。そこでは生理的・経済的次元においては一人前の大人と変わらないが、社会的にはまだ成人としての地位・役割をとりえていないということで一人前として扱われない年長青年または若い大人たちの役割学習と状況適応が問題となるのである。これも再社会化の現代的様相である。

[柴野昌山]

社会化の種類

次に社会化の種類として、職業的社会化、政治的社会化、道徳的社会化、および言語的社会化などが区別される。

 職業的社会化とは、職業的地位が要求する役割に十分こたえることができるような態度、意識、行動様式を身につけることである。どのような職業を希望し、どのような仕事に興味をもち、その職業にふさわしい価値観を習得していく過程において、職業的自我を形成することが職業的社会化のたいせつな部分である。

 政治的社会化は、政治意識の形成とその変容にかかわる過程であるが、とりわけ政治に関する知識、価値、態度を学習することによって青年期以後の政治的構えを形成するものである。政治に対する構えは、自然につくられるのではなく、周囲の大人たち、マス・メディア、教師との接触を通して、また地域社会における政治的事件を見聞することによって学習され、形成される。政治に対する関心、好意的または非好意的態度、参加意識などは、政治的社会化のあり方によって大きく左右されるのである。

 道徳的社会化とは、いいかえれば道徳性の形成である。この領域の研究は社会学や心理学において古くから行われている。ピアジェは、認知的側面から道徳性の発達を研究し、子供の道徳性は、自己中心的な段階から協同的関係へ発達すると考えた。彼が行った子供のマーブル・ゲーム(おはじき遊び)の観察研究は有名である。これは、子供が遊びを通して規則ないし社会規範をどのように内面化していくかを明らかにした。これによると、幼い子供は、規則やルールの観念を全然もたない、また競争に関心をもつこともない段階(自閉性の段階)から、次には、しだいに仲間や他の人々との間で規定された役割をとることを知るようになる。だがこの段階は、まだ規則や役割規定の根拠をほとんど理解しないままそれらを宇宙の法則と同じように受け取る(絶対性の段階)。そして7、8歳くらいになると、絶対的でない世界があることを認めるようになり、自他の視点の相違をわきまえて他者の期待を内面化するようになる(相互性の段階)。このようにして相互尊重の精神と良心の形成が進むのである。

 言語的社会化は、言語的コミュニケーションを通して、大人のもっている文化が子供のパーソナリティーのなかへ内面化されていく過程である。この種の研究には、話し手の心のなかに存在する言語的選択の規則に注目して、文化的言語環境のもつ社会化作用を重視するものや、母親の養育行動と幼児の反応行動に注目して、あるしつけの型がどのようなパーソナリティーを形成するのかを探ろうとする方法などがある。とりわけ後者は、文化人類学的視点に基づく比較文化論的な社会化研究といわれるもので、コーディルWilliam Caudillらの日米比較研究によると、日本の児童はアメリカの児童に比べて言語発達における明らかな遅れを示すとともに、幼児は養育者に対して依存的行動をとる傾向があるという。これは、日本人が非言語的コミュニケーションと自他の相互依存的関係を優先させるような社会的性格をもっていることと無関係ではない。

[柴野昌山]

『W・コーディル他著、中山慶子訳「母親の養育行動と乳児の行動」(『現代のエスプリ113 しつけ』所収・1976・至文堂)』『菊池章夫・斉藤耕二編『社会化の理論』(1979・有斐閣)』『B・バーンスティン著、萩原元昭編・訳『言語社会化論』(1981・明治図書出版)』『柴野昌山編著『しつけの社会学――社会化と社会統制』(1989・世界思想社)』

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改訂新版 世界大百科事典 「社会化」の意味・わかりやすい解説

社会化 (しゃかいか)
socialization
Sozialisierung[ドイツ]
Vergesellschaftung[ドイツ]

以下の三つが考えられる。

(1)生産の社会化 生産過程の一単位が大規模となり,機械,原材料,補助材料,労働者の数の面で,他の生産過程との結びつきが社会的規模の緊密さを高めるなかで,生産手段がごく限られた数の人々によってでなく,多数の株主によって,あるいは政府のような公的な組織に所有され,生産が社会的広がりをもつ組織によって経営されるようになることを〈生産の社会化〉という。株主を幅広く多数擁する株式会社制度の普及は一種の〈生産の社会化〉である。また20世紀には,社会主義による生産の社会主義化=生産の社会化Sozialisierungが強く主張され,かつてのソ連などで統制経済のすがたで生産の社会化がある種の完成をみている。また第1次大戦後のドイツ・ワイマール共和国で社会化委員会のもとで経済の国家管理の試みがなされ,第2次大戦後のイギリス労働党政権下で重要産業の国有化政策がとられた。これらはすべて〈生産の社会化〉の名でよばれている。

(2)市場の社会化 市場社会において市場の自己調整的作用の破壊的・攪乱的影響から社会を防衛するために,市場がさまざまな社会的措置にとりまかれるようになることをいう。K.ポランニー《大転換》(1957)に依拠した観点である。これによれば,自己調整的市場によって支配された社会は,19世紀以来,社会の実在としての人間,自然,生産組織の防衛を意図する〈社会〉の側からの絶えざる反撃を受け,しだいに市場の自己調整的機能は制限されるにいたった。社会保障,カルテル,消費協同組合,労働組合,環境保護,公共事業,公営企業,教育制度,農業保護等,労働や土地,生産組織を市場の圧力から防衛するための制度が現代社会ではすでに網の目のごとく広まっている。日本ではさらに政府の行政指導や中央銀行(日銀)の窓口規制,日本的雇用慣行(終身雇用制)も加わって市場の自己調整作用に対する社会の防衛は,とりわけ強固になっているといえよう。

(3)生の社会化 耐久消費財の大量生産方式,マス・メディアの発達,民主主義的制度の普及に支えられて,大衆消費社会が成熟するにつれ,生活の階級的特性・矜持(きようじ)・差異が失われ,大組織や技術に個々人のほうが管理されるようになり,生が画一化し規格化され,生の全体が陰に陽に社会的規制のもとにとりこまれ,つぎつぎに移りゆく流行の先端をいくことだけが個性であるとみなされるようになった現代の状況を,〈生の社会化〉という。G.ジンメル,オルテガ・イ・ガセットなどによって指摘されている。
執筆者:

生物としてのヒトは,社会的存在たる人間となる素質をもって生まれてくるが,自然のままに放っておいて人間になるわけではない。オオカミに育てられた野生児が,人間としての行動様式をまったく獲得していなかった例が端的に示すように,ヒトは社会的環境の中で育てられてはじめて人間になっていく。この過程が社会化socializationであり,それは個人が社会の一員として必要な知識や技術,行動様式や規範を習得していく過程である。したがってそれは,子どもが一人前の社会人としての人格を発達させていく過程としてみることもできる。社会の側からみれば,それは次の世代へと文化を伝達し,社会を存続,発展させるための後継者をつくりあげていく過程であり,家族や学校,地域社会やマス・メディアなどの種種の集団や制度がそれを担っている。また個人の側からみれば,それは基本的生活習慣から価値観や道徳意識にいたるまで,その社会の一員たるにふさわしい文化内容を習得,内面化し,社会にうけいれられていく過程である。しかし,それは個人が社会の期待する鋳型にはめられ,個性を失って画一化されていくことを意味するわけではない。性や気質,その他の個人的条件のちがいによって,社会化のされ方が規定される側面があるとともに,社会化されていくなかではじめて人間としての個性をももちうるという意味で,社会化の過程は,その人がその人らしい個性を形成し,発揮していく〈個性化〉の過程でもある。

 近年,社会が複雑化し,急激に変化,発展していくなかで,社会がどのように成立し,存続するのか,個人がいかにしてその社会の担い手になっていくのかという問題が,あらためて問われるようになり,心理学や社会学,文化人類学などの領域で,この社会化をめぐっての研究がさかんになってきている。とりわけ1960年代以降,〈初期経験〉の研究をはじめ,人間の行動の変化に及ぼす経験の効果を明らかにする研究が進み,この面での新たな知見が蓄積されてきているなかで,子どもが一人前のおとなになっていく発達の過程を理解するのに際して,生物学的な成熟の側面よりも,経験や学習の効果が重視される風潮が強まってきており,その面から社会化をめぐっての研究が促進されてきている。
執筆者:

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「社会化」の解説

社会化(しゃかいか)
Sozialisierung[ドイツ],socialization[英]

民間の主体が所有する生産設備を公有化ないし国有化すること。第二次世界大戦後,イギリス労働党政府やオーストリア政府は,基幹産業を対象に幅広く国有化を実践した。社会主義体制下においては,計画経済を編成する重要な手段として広く用いられた。敗戦後のドイツにおいても,ソ連占領地区では,銀行やいったんはソ連所有の株式会社に委譲された多くの大企業が国有化され,のちに成立する東ドイツ国家経済の基盤となった。

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世界大百科事典(旧版)内の社会化の言及

【心理人類学】より

… 生活様式としての文化は実在する客体であるが,それぞれの社会の成員は,ごく幼いころから当該社会の文化を学び始め,しだいに身に着けていく。この過程は文化化enculturationまたは社会化socializationと呼ばれる。これらの過程によって,文化がどのように主体としてのパーソナリティに内面化されるのか,そしてどのような特徴をもつ民族的性格national characterや社会的性格social characterが形成されるのか,この点を理論的・実証的に明らかにするのが,心理人類学の基本的課題であるとされてきた。…

【ドイツ革命】より

…大会では社会民主党が過半数を占め,革命的オプロイテやスパルタクスブント(スパルタクス派が改称)の主張する〈レーテ体制〉を退けて,国民議会選挙の早期実施を決定した。しかし大会は同時に,社会民主党指導部の意向に反して,軍隊の民主化と石炭業等の社会化Sozialisierungを求める決議を採択し,労働者・兵士大衆が旧体制の社会的基盤の根本的改革を求めていることを明らかにした。これに対して軍部は,クリスマスにベルリンでおきた人民海兵団事件の武力制圧に失敗すると,社会民主党政府(この事件での同党の態度を不満として独立社会民主党は下野)の支持のもとに,反革命派の復員軍人を主体とした義勇軍(フライコールFreikorps)の結成を強力に推し進めた。…

【社交】より

…文字どおりには,人と人とのつきあい,社会での交際,世間のつきあいを意味するが,社会学的な観点からは,社会を成り立たせる原点としてとらえられる。たとえば,社会学者のG.ジンメルは,諸個人間の相互作用によって集団や社会が生成される過程,すなわち社会形成過程(社会化Vergesellschaftung)に関して,その形式における純粋型を想定し,それに〈社交性Geselligkeit〉という概念を当てた。またG.ギュルビッチは,社会的現実を構成する要素として,〈社交性sociabilité〉,すなわち社会的交渉形態を考えた。…

【社交】より

…文字どおりには,人と人とのつきあい,社会での交際,世間のつきあいを意味するが,社会学的な観点からは,社会を成り立たせる原点としてとらえられる。たとえば,社会学者のG.ジンメルは,諸個人間の相互作用によって集団や社会が生成される過程,すなわち社会形成過程(社会化Vergesellschaftung)に関して,その形式における純粋型を想定し,それに〈社交性Geselligkeit〉という概念を当てた。またG.ギュルビッチは,社会的現実を構成する要素として,〈社交性sociabilité〉,すなわち社会的交渉形態を考えた。…

【心理人類学】より

… 生活様式としての文化は実在する客体であるが,それぞれの社会の成員は,ごく幼いころから当該社会の文化を学び始め,しだいに身に着けていく。この過程は文化化enculturationまたは社会化socializationと呼ばれる。これらの過程によって,文化がどのように主体としてのパーソナリティに内面化されるのか,そしてどのような特徴をもつ民族的性格national characterや社会的性格social characterが形成されるのか,この点を理論的・実証的に明らかにするのが,心理人類学の基本的課題であるとされてきた。…

【ドイツ革命】より

…大会では社会民主党が過半数を占め,革命的オプロイテやスパルタクスブント(スパルタクス派が改称)の主張する〈レーテ体制〉を退けて,国民議会選挙の早期実施を決定した。しかし大会は同時に,社会民主党指導部の意向に反して,軍隊の民主化と石炭業等の社会化Sozialisierungを求める決議を採択し,労働者・兵士大衆が旧体制の社会的基盤の根本的改革を求めていることを明らかにした。これに対して軍部は,クリスマスにベルリンでおきた人民海兵団事件の武力制圧に失敗すると,社会民主党政府(この事件での同党の態度を不満として独立社会民主党は下野)の支持のもとに,反革命派の復員軍人を主体とした義勇軍(フライコールFreikorps)の結成を強力に推し進めた。…

※「社会化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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