翻訳|charisma
ギリシャ語で「神からの賜り物」という意味で、一般的には超人的な資質、能力を指す。マックス・ウェーバーの「職業としての政治」では、「非日常的な天与の資質」とされ、その資質を持つ、ある個人への人格的な帰依と信頼に基づく支配を「カリスマ的支配」と呼んだ。具体的には、預言者や人民投票で選ばれた支配者、デマゴーグ(扇動家)らの行う支配を挙げている。家父長による「伝統的支配」、合理的で客観的な権限に基づく「合法性による支配」と並ぶ支配類型の一つとされている。
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ギリシア語に由来し,原始キリスト教の用語法では奇跡を施し預言をおこなう,神から授かった特殊な能力(恩寵の賜物)を意味した。広い意味ではカリスマとは,特定の人物に宿っているとみなされる非日常的な天与の資質を指す包括的な概念である。この超自然的・超人間的な非凡の才能を発揮するカリスマ的人物は,神から遣わされた指導者,あるいは仰ぐべき優れた指導者として帰依者に評価され,こうして宗団または従士団の形をとる情緒的なカリスマ的共同体ができる。もともとカリスマは,宇宙に遍在する神秘的・超自然的な非人格的威力を指すマナmanaというメラネシア原住民の観念や,É.デュルケーム以来の宗教学的な〈聖〉の概念とも,内容的に共通する点の多い概念であった。それに対して,カリスマという用語を宗教に限定せずより広い意味で使用し,支配の正当性の一類型を説明する分析概念として理論化したのはM.ウェーバーである。ウェーバーは合法的支配,伝統的支配に対比される第三の支配の型としてカリスマ的支配という概念を提起した。合理的・法制的な根拠や慣行的・伝統的な権威などに依拠しないカリスマ的支配の存立の基礎は,指導者が提供する呪術的能力・啓示・戦闘的英雄性・強靱な精神力・弁舌力などの証(あかし)と,それに対する被支配者の側の自由な承認・情緒的帰依である。カリスマ的指導者の典型例は宗教的教祖,軍事的英雄,政治的英雄(偉大なデマゴーグ)である。彼らは対外的また対内的な危機に際して,人々からカリスマ的資質を有する英雄として待望され,使命感をもって登場する。この期待にこたえてカリスマ的指導者は,カリスマを一身に体現しそれを実証してみせることでカリスマ的権威を確保し,もって全人格的な信頼関係で結ばれるカリスマ的共同体を率いていく。
しかし,カリスマの妥当性が,カリスマの担い手による証の提供と被支配者によるその自由な承認とに基づく以上,カリスマ的支配はすぐれて不安定なものとならざるをえない。奇跡の試練にたえられず,また証の期待にこたえられないカリスマ的指導者は,被支配者の信頼と承認とを失う運命にある。ここに,カリスマ的共同体を存続させるため,それぞれの思惑から,カリスマやその恩恵を日常的で永続的なものに転化させる試みが追求される。カリスマの日常化というカリスマ観念の変化の契機は,とりわけカリスマ的人物が欠如し後継者問題が重大化するところに存する。そこで第1にカリスマは血統を伝わってそのカリスマ保有者の近親者に付着する(世襲カリスマ),第2にカリスマは人為的・呪術的な儀礼手段を通じて移転しうるものであり,特定の社会制度(たとえば教会)そのものが特殊な恩寵をうけている(官職カリスマ),といった考え方が出てくる。本来非日常的かつ一身専属的なカリスマは,このように非人格化・日常化される過程で,その生誕期の秩序破壊的・創造的な革命的性格とは対照的に,既成秩序の正当化・維持に傾斜していく。他方,潜在的にはカリスマの再臨の期待が高まる。
→支配
執筆者:坂本 孝治郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
元来はキリスト教用語のギリシア語で神の賜物(たまもの)を意味し、神から与えられた、奇跡、呪術(じゅじゅつ)、預言などを行う超自然的・超人間的・非日常的な力のことである。こうした能力や資質をもった人がカリスマ的指導者であり、ナポレオン、ヒトラー、スターリン、毛沢東(もうたくとう)などがあげられる。M・ウェーバーが支配の正当性の類型化にこの概念を用いたために、社会科学における学術用語としてはもちろん、広く一般にも用いられるようになった。ウェーバーは、合理的支配、伝統的支配、カリスマ的支配からなる支配の三類型を定式化した。カリスマ的支配とは、カリスマ的資質をもった指導者に対する個人的帰依(きえ)(承認)に基づく支配である。真のカリスマは権威の源泉となり、承認と服従を人々に対して義務として要求する。この服従と承認は、指導者の行う奇跡によって強められる。こうして、服従者は指導者と全人格的に結ばれ、信頼と献身の関係が成立する。この支配関係は官僚的手続や伝統的慣習または財政的裏づけに依拠せず、指導者固有のカリスマに対する内面的な確信にのみ基づいている。したがって、構造的にも財政的にも不安定な関係であり、服従者の帰依の源泉であるカリスマの証(あかし)がしばらく現れない場合、カリスマ的権威は失墜し、指導者は悲惨な道をたどることになる。しかし、カリスマが有効に作用する限り、遠回しの手続を必要としないので、危機的状況や革命的状況に適した支配パターンといえる。
ところで、カリスマが血統や地位のなかに日常化されて、地位そのものにカリスマが生じる「官職カリスマ」とか、カリスマが代々受け継がれていく「世襲カリスマ」となる場合がある。また、カリスマが組織や制度に定着することもある。今日の政治社会では、マス・メディアを通じた情報操作によって擬似カリスマをつくり、支配の正当化を図ることがよくみられる。
[大谷博愛]
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[社会的機能]
(1)超自然的存在を直接媒介することにより,当該民族・社会の神観念や他界観念を具象化,活性化させる。(2)未開社会のシャーマンは社会統合の中心としての役割を果たすが,文明社会においても強力な〈カリスマ〉として人々を糾合し,集団を形成するにいたることは多くの新宗教集団の例に見られる。(3)シャーマン的カリスマ性は各地の王や首長,指導者の権威の基礎になっていることが少なくなく,邪馬台国の女王卑弥呼やアフリカのシルック族の王などその例である。…
※「カリスマ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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