政治漫画（読み）せいじまんが（その他表記）political cartoon

改訂新版　世界大百科事典

政治漫画 (せいじまんが)
political cartoon

政治的な事象を風刺や宣伝や啓蒙の意図をもって視覚化し，その事象に含まれる政治的な核心をイメージで提示する漫画。政治的な支配階級や社会の上層の人々や聖職者を戯画化して，その権威の仮面を剝ぐことは，統治者と被治者とが分極していた伝統社会においても，つとに見られた。しかしながら，市民が政治の舞台に登場し，複製の技術と伝達のメディアが発達した近代において，政治漫画は政治批評としての様式を獲得する。18世紀のイギリスでは，政治家や地主階級の議員が，穀物の消費量を増すため蒸留酒製造業への法的規制と税を緩和して，ビールにかわる安価なジンの大量消費を計画的に奨励した結果，過度の飲酒が都市の貧窮，犯罪，家庭破壊を助長した。W.ホガースは，健康で幸福な〈ビール通り〉と，不幸と恐怖に満ちた〈ジン横丁〉との一対の銅版画で，ジョージ2世時代の政治と世相を風刺した。彼や，T.ローランドソン，G.クルックシャンクらの風刺版画は政治漫画への道を開いた。

　政治漫画は，支配層の腐敗，偽善，悪を暴露し，直接批判すると同時に，支配層の権威や価値を引き下げて，民衆の心理的解放や批判意識に火をつける。また民衆自身を戯画化する場合には，みずからを笑いつつ民衆の自己認識を促す。他方，支配層も政治宣伝の一手段として政治漫画を利用するようになった。マス・メディアの発達とともに，政治漫画は新聞や雑誌に確実な位置を占めた。アメリカの《マッド》，ソ連の週刊誌《クロコディル》，中国の《諷刺と幽黙（ユーモア）》（《人民日報》増刊号，隔週刊）のような風刺専門紙誌も現れた。

　日本の大友克洋の《童夢》，マレーシアのラットLatの《タウン・ボーイ》，中国の張楽平の《三毛流浪記》のような民衆の自己理解を示す漫画，あるいはメキシコのリウスRiusの《資本主義残酷史》や《初心者のためのマルクス》のような被抑圧者の思想的な自己啓蒙を表す漫画が，風刺から一歩踏み込んで，民衆の自己解放と現実の変革を射程に入れた政治漫画の創造的な方向性を示唆して重要である。
→風刺　→漫画
執筆者：栗原 彬

出典　株式会社平凡社「改訂新版　世界大百科事典」