日本大百科全書(ニッポニカ) 「ホガース」の意味・わかりやすい解説
ホガース
ほがーす
William Hogarth
(1697―1764)
イギリスの画家。ロンドンに生まれ、同地に没。初め版画を学び、1720年代の末ごろ、油彩を当時の宮廷画家ソーンヒルの画塾に学ぶ。師の娘と駆け落ち同然に結婚。初め生活のため小さな肖像画や家族だんらんの絵を描いたが、やがて物語絵の連作を始める。1731年ごろに『ある娼婦(しょうふ)の生涯』6場を描いて以来、多くの物語絵をつくって成功を収め、岳父とも和解する。35年以後『ある蕩児(とうじ)の生涯』その他が制作され、45年には『当世風結婚(マリッジ・ア・ラ・モード)』が描かれた。これらの作品のうちにはバラッド・オペラにされたものもあり、また彼自身がこれを銅版画にして民衆に親しまれることになった。これは、スウィフトなどによる散文の確立と、ジャーナリズムの発展という時代の風潮と不可分のものだった。こうした作品で当時の貴族や富裕階級を鋭く批判したので、風刺画の祖ともいわれる。しかし、一方では『えび売りの娘』のような生気に満ちた新鮮な油彩によるスケッチを残している。こうしたさりげない作品に人間への愛情がいっそう強くうかがえる。53年『美の分析』と題する論文も出版している。
[岡本謙次郎]
『森洋子編著『ホガースの銅版画――英国の世相と諷刺』(1981・岩崎美術社)』