種々の具体的な言語表現(発話)から抽象して設定される,文の構造上のいくつかの類型をいう。
(1)文の構造は,これを構成する成分(主語,述語,修飾語,独立語など)間の関係において考えられるが,これら各成分の結びつき方に種々の類型が認められるわけで,英文法で説くS+V,S+V+C,S+V+O,S+V+O+O′,S+V+O+Cという五つの型などもその一例である(Sは主語,Vは動詞,Cは補語,Oは目的語)。日本語では,たとえば〈…が…〉〈…から…まで…〉〈…ので,…〉のように,成分の論理的な関係を表示する格助詞・接続助詞の類を中心に,語順をも考慮して,いくつかの類型をたてることができる。
(2)これに対してまた,文をその表現意図によって分類し,それぞれの表現形式と結びつけて,平叙,推量,疑問,反語,命令,要求,呼びかけ,感動等々の文の類型をたてることもできる。この場合は〈…ぞ。〉〈…か。〉〈…なさい。〉〈…ください。〉〈…こと!〉など,文末の形式,特に終助詞やある種の助動詞,およびイントネーション,語順などに着目するのが便利である。このように文型は,文法論における文論の問題として考えられるものであるが,また以上いずれの場合も,〈…〉の部分に適当な語句をあてはめて具体的な表現として用いうべき型を示すものであって,外国人ないしは児童に対する言語教育の効果的な方法として,しだいに広く利用されつつある。そのためにも今後なおいっそうの体系化が望まれる。文型のうち特に基本的なものを基本文型(基礎文型)とよぶ。
執筆者:阪倉 篤義
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
文が、どのような要素を、どういう順に組み合わせて成立しているのかをいくつかの類に分けて記述したとき、その一つ一つの類型やその記述を文型とよぶ。したがって、文法の記述の方法が異なれば、それによって文型の概念も異なったものとなるために、統一的な定義は存在しない。いくつかの文型の記述法を例示すると次のようになる。(1)動詞文・形容詞文・名詞文、(2)平叙文・疑問文・命令文・感嘆文、(3)S(主語)+V(動詞)+O(目的語)、S+O+V。
文型が問題となってきたのは、おもに外国語として当該言語を学習するときであるが、古典語の学習にもまた用いられた。日本語の文型表としてもっとも初期のものは、江戸時代初期の歌学の世界で用いられた『姉小路式(あねがこうじしき)』等の歌学書である。その完成された形が本居宣長(もとおりのりなが)の『詞(ことば)の玉緒(たまのお)』にみられる。明治以降は、おもに太平洋戦争中に日本語教育の必要性から、基本文型の研究が行われた。戦後では、国立国語研究所の諸研究が、記述的文型研究のもっとも詳細なものである。また、生成文法は、文生成の統一的規則を求めるものであるから、文型研究をその一部に含むものである。
[近藤泰弘]
『青年文化協会編『日本語基本文型』(1942)』▽『国立国語研究所編『話しことばの文型(1)(2)』(1960、63・秀英出版)』▽『林四郎著『基本文型の研究』(1960・明治図書)』
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