言語教育(読み)げんごきょういく(英語表記)language education

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

言語教育
げんごきょういく
language education

認識,思考,伝達,創造など言語の諸機能を習得させる教育。幼児は周囲からの言語による働きかけによって言語を聞き,話し,読み,書く能力を習得していくが,この働きが自然の教育になっている。これに対して学校における言語教育は,児童,生徒に正しい言語能力を効率的に習得させるための意図的,計画的な営みである。言語の習得はすべての教育の基盤として不可欠のもので,どこの国においても学校教育の初段階から実施する。段階が進むにつれて母国語以外の言語の学習を導入する国が少くないが,ヨーロッパやアメリカでは母国語,外国語でなく,第1言語,第2言語という考え方がとられつつある。また特殊な領域として,盲・聾・唖教育においても,独自の言語教育が開発,実践されている。

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デジタル大辞泉の解説

げんご‐きょういく〔‐ケウイク〕【言語教育】

適切な言語能力と言語技術を養うための教育。学校では、国語科や外国語科のなかで計画的・意図的に行われる。

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世界大百科事典 第2版の解説

げんごきょういく【言語教育】

〈言語教育〉ということばは,2通りの使われ方をしている。広義では,客観的に存在する言語体系,言語文化,言語生活を教育内容とし,伝達,学習,記憶などによってそれらを個々人の内的な言語能力へと組織するような教育的働きかけの総称として用いられる。この場合には,学校で行われる読み方,書き方などの定型的な教育だけでなく,赤ん坊に対する母親のていねいな話しかけや幼児への絵本の読み(語り)きかせ,あるいは挨拶ことばのしつけなど,家庭や地域社会で行われる広い意味でことばの教育,さらには外国語教育なども言語教育の内容として含まれる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

言語教育
げんごきょういく

人間だけが獲得しうる言語(ことば)の能力の習得を目ざして営まれる教育的活動(学習指導)をいう。広義には、国語(母国語)教育と外国語教育とが含まれる。狭義には、学校で行われる国語科教育において、文学作品を媒材とする文学教育に対して、文字・音声・文法・作文・読解などの学習指導について用いられる。[野地潤家]

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精選版 日本国語大辞典の解説

げんご‐きょういく ‥ケウイク【言語教育】

〘名〙 初等教育において、自国語の正しい用い方を教える教育。話す、聞く、書く、読むの四つを通して言語に対する知識を獲得させ、言語の正しい用い方を養う。→国語教育

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最新 心理学事典の解説

げんごきょういく
言語教育
language education

一般的には,学習者の母語を対象とした母語教育と学習者の外国語を対象とした外国語教育を指すが,両者を有機的に統合した教育を指す場合もある。人間にだけ与えられたことばlanguageは人間の精神活動の根幹をなすものであり,その意味で,ことばは教育にとって最も重要な問題の一つである。ことばと教育の問題を考えるに当たって,まず知っておかなくてはならないことは,ことばはコミュニケーションcommunicationの手段として用いられるだけでなく,さまざまな機能をもつということである。なかでも,ことばは思考の過程で重要な役割を果たす。

 人間が,高度に複雑で抽象的な思考を展開することができるのは,ことばがあるからである。学校教育におけることばの役割や位置づけについて考えるに当たって,学習者の母語を対象とする母語教育(日本では国語教育とよばれている)と,学習者にとっての外国語を対象とする外国語教育(たとえば,日本における英語教育や非日本語話者を対象とする日本語教育)を取り上げることは当然であるが,それだけでなく,ことばがすべての教科や活動などにおいて用いられていることも忘れてはならない。その意味で,子どもたちの発達において重要な役割を果たすことばの力の育成は,母語教育や外国語教育の場だけではなく,学校教育全体で取り組まなくてはならない課題である。2011年度から順次施行されている学習指導要領も,「ことばの力」の育成は教科横断的に行なわれなくてはならないとしている。

【メタ言語意識とメタ言語能力】 人間は生まれてから一定期間,特定の言語(たとえば日本語,英語,スワヒリ語,日本手話などの自然言語natural language。以下,個別言語particular languageとする)に触れることによって,その言語の知識が形成され,その言語を使えるようになる。そのような言語を母語mother tongue,あるいは,第1言語first languageとよぶ。母語の形成(以下,言語獲得language acquisitionとする)は大筋で無意識のうちに行なわれ,結果として身についた母語の性質についても無意識的である。

 たとえば,日本語を母語とする人(以下,日本語話者とする)は,次の⑴と⑵では「だれが夕食を食べたか」についての可能性に違いがあることを判断できる。

⑴ 父は帰宅してから,夕食を食べた。

⑵ 父が帰宅してから,夕食を食べた。

 すなわち⑴では,夕食を食べたのは一義的に父であるが,⑵では,だれでもよい(ただし,語用論的な理由から,文脈なしの場合は,父以外のだれかという解釈が優先される)。しかし,第2言語や外国語として日本語を身につけたことがない非日本語話者は,そのような判断を下すことができない。

 これらの事実は,日本語話者(および,第2言語や外国語として日本語を身につけた人)がそうした判断の根拠となる一定の知識を獲得していると考えることによって説明できる。しかし,その一定の知識はどのような性質をもったものであるかは通常,意識されていない。それゆえたとえば,日本語話者が日本語を外国語として学ぶ人から⑴と⑵の違いはなぜ生じるのかと尋ねられても,きちんとした回答をすることはできない。

 しかし,母語が意識の対象となることもある。ことば遊びの場面がその典型例である。たとえば,しりとりをする場合,競技者は相手が発した語を拍(モーラ)に分節し,その最後の拍で始まる語を心的辞書mental lexicon(心内にあることばの辞書)から検索する必要がある。このとき,少なくともその過程の一部に,特定の拍や一定の条件を満たす語(たとえば,名詞であることや「ん」で終わらない語)を検索するという意識的過程が含まれると考えられる。この例に見られるように,自己の言語知識を対象とした意識をメタ言語意識metalinguistic awarenessとよび,大津由紀雄・窪薗晴夫(2008)による用語では「ことばへの気づき」という。また,メタ言語意識を利用して言語の運用を行なう能力をメタ言語能力metalinguistic abilityとよぶ(Cenoz,J.,& Hornberger,N.N.,2007など)。メタ言語意識とメタ言語能力には音韻,形態,統語,意味,談話など諸領域を対象としたものがあり,領域ごとに発達の時期などに差があると考えられている。

【言語の個別性と普遍性】 個別言語がもちうる個別性は多様で,これをことばがもつ多様性とよぶことがある。しかし,人間が母語として身につけることができる個別言語は,普遍的な制約のもとに構築されたシステムである。これをことばがもつ普遍性とよぶ。普遍性の存在は,母語はひとえに後天的に決定されるものであるが,生を得た時点では,どの個別言語でも母語として獲得できる可能性をもっていることからもうかがうことができる。実際,たとえば音の面では,どの音声言語でも,言語音は基本的に母音と子音という範疇のいずれかに属し,それらを組み合わせることによって語が形成される。個別言語間の違いが生じるのは,どの母音を選ぶか,どの子音を選ぶか,そして,どのように母音と子音を組み合わせて語を形成するかに起因する。たとえば,英語では母音としてæが選ばれているが,日本語では選ばれていない。また,日本語では母音と子音の組み合わせは(基本的に)「(子音+)母音」(たとえば,/a/や/ka/)であり,子音が連結することや子音で語が終わることはないが,英語ではいずれも可能である(たとえばstrong)。

 文法についても,たとえばどの言語も文(主節)にその一部として文(従属節)を埋め込むしくみをもっている。個別言語間の違いは,主節のどの構造的位置に従属節が生じうるかに起因する。たとえば,日本語では,

 太郎が[次郎がアムステルダムへ出かけた]と言った([ ]内が従属節)

という構造になり,従属節は「(と)言った」という主節の動詞の前に置かれるが,同じ内容の英文では,

 Taro said that [Jiro left for Amsterdam]

という構造を取り,従属節はsaid (that)という主節の動詞の後に置かれる。

【母語教育の目的】 従来,母語教育の目的は,いわゆる4技能(聞く,話す,読む,書く)の育成に重点をおいていた。しかし,ことばの本質的機能がコミュニケーションにあるのではなく,高度に複雑で抽象的な思考を可能にすることにあることを考えると,その本来的な目的は思考を中核に据えて展開する理解と産出(表現)をできるだけ意識的にとらえ,その過程を意識的に制御するメタ言語能力を育成することにあるとすべきである。理解の過程においては,発話者の発話意図を正確に把握するために,また産出の過程においては自己の発話意図を的確に表現するために,運用の一過程で言語表現の解析と統合が行なわれる。

 この過程は無意識のうちに展開されることが多いが,訓練によって一部を意識化することも可能である。たとえば,日本語話者が,

 「国民に負担をかける増税は断固として実施しない」

という政治家の公約を耳にしたとき,「国民に負担をかける増税」という部分が曖昧ambiguous(複数の解釈を許容する)であるという点に気づく人もいれば,気づかない人もいる。一つは,「増税には国民に負担をかけるものとそうでないものがあり,前者を実施することはしない」という解釈で,この場合,その政治家が後者を実施しても公約違反とはならない。もう一つは「増税というものはどのようなものであっても,国民に負担をかけるものであり,そのような性質をもつ増税を実施することはない」という解釈である。この場合には,いかなる増税も公約違反となる。この公約の曖昧性ambiguityに気づくことができれば,その政治家の発言の意図を慎重に探るきっかけになりうるが,気づくことができなければ,仮にその曖昧性を利用して国民を欺く意図があったとしても,それを見抜くことはできない。このように理解の過程で,発話者の発話意図をきちんと把握することは重要であり,その基盤としてのメタ言語能力を育成することは母語教育の根幹をなすべきものである。

 発話者は自己の思考を整理して把握したうえで,発話意図を正確に伝えるための言語表現を組み立てることによって,効果的な言語運用を実現させることができるが,ここでもメタ言語能力が重要な役割を果たす。たとえば,「警官が逃走する泥棒を自転車に乗って追いかけた」という発話意図を表現しようとして,

 「警官は自転車で逃げた泥棒を追いかけた」

と発話してしまうと,(韻律の使い方にもよるが)発話意図とは異なり,「自転車に乗って逃走する泥棒を警官が追いかけた」という解釈をされてしまう危険性がある。このとき,メタ言語能力を使って,この危険性が察知できれば,代わりに

 「警官は逃げた泥棒を自転車で追いかけた」

を用いることによって,その危険性を回避することができる。

 これらの例はいずれも単一の文内の話であるが,同様のことが文章(あるいは談話)レベルについてもいえる。理解については,相手が発した文章を構成する文の間の関係を,接続表現などを利用しながら分析し,相手の発話意図を的確に推測する必要がある。この過程において,メタ言語能力が重要な意味をもつ。

 なお,文章(談話)理解の過程においては当該文章そのもの以外にも多様な要因(たとえば発話者と理解者の関係,話題になっている事柄に関する情報など)が複雑に絡み合う。その際,メタ言語能力とメタ認知能力meta-cognitive ability(関連する要因や要因同士の絡み合い方などを,できるだけ意識的に分析する力)とを,連携させる必要がある。なお,メタ認知能力は,自分の認知への気づきや意識的に分析する力のことで,学齢前5歳後半ごろまでに身につくと考えられている。

 このように,メタ言語能力は学習者がもつ母語の知識を効果的に運用するうえで重要な意味をもつ。そのメタ言語能力を育成することが,母語教育の本来的目的といえる。

 これに関連して,「言語技術(言語技術教育)」(たとえば木下是雄,1981;三森ゆりか,2002)という名称でよばれてきたさまざまな考え方や実践があるが,名称のゆえもあって,小手先の方略を指導するための教育と誤解されることが多い。欧米ではlanguage arts(「言語技術」と訳されることが多い)の名称が定着しているが,理解-思考-産出(表現)の過程を言語運用とよぶので,日本語では言語運用法という名称がふさわしいと考えられる。

 なお,「言語論理教育」(井上尚美,1989)という名称が用いられることもあるが,論理は感性と対立してとらえられることも多いので,文学教育などもより自然な形で取り込もうとするときに難がある。

【日本における英語教育の目的】 外国語教育の本来的目的は,その種類によってさまざまである。たとえば,定住するために来日した非日本語話者に対する日本語教育では,学習者の日本語コミュニケーション能力の育成が一にも二にも重要である。それに対して,日本における英語教育の場合はいささか事情が異なる。「グローバル化する世界」といううたい文句のもとに,英語のコミュニケーション能力を向上させることにこそ英語教育の目的があるとする考え方が一般的である(たとえば2002年度に文部科学省が策定した「『英語が使える日本人』の育成のための戦略構想」,および「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」など)が,実生活で英語をコミュニケーションの手段として必要とする人の割合などを考えると,それだけを英語教育の目的とするのはいささか偏りがある。

 むしろ,英語教育の本来的目的は英語という外国語を意識的・意図的に学ぶことによって,メタ言語意識を高め,メタ言語能力を育成することにあると考えるのが自然である。高められたメタ言語意識とメタ言語能力は,同じ普遍性の上に築かれた母語(多くの場合,日本語)に対しても機能し,それによって母語の豊かな運用を助けることにつながる。

 さらに,そうして育成されたメタ言語意識とメタ言語能力は英語そのものの豊かな運用にもつながり,英語のコミュニケーション能力の育成だけをめざした英語教育よりも,結果として学習者の英語のコミュニケーション能力を向上させることができる。母語の確固たる基盤をもたない学習者の外国語定着率がきわめて低いことについては,中島和子(1998)などの研究成果が実証的に示すところである。中島は,日本からカナダに移住した子どもたちの英語読解能力の発達を,移住したときの年齢との関連で調査した。その結果,最も速く,しかも堅固な英語読解能力を身につけるのは7歳から9歳の間に移住した場合で,10歳から12歳の間に移住した場合がそれに続く。いずれも,母語の基盤が築かれてからの移住である。これに対し,3歳以前や3歳から6歳の間に移住した場合には,移住当初は一定の伸びを見せるものの,それ以降の英語読解力の伸びは緩やかになってしまう。この報告例は英語環境での英語獲得であるが,日本における英語学習の場合には,さらに入門期指導の適否の問題が加わり,母語の基盤が形成される以前からの学習開始は早くからの英語嫌いを生み出してしまう危険性が高い。

 なお,早期英語教育を支持するために,臨界期critical period(敏感期sensitive period)をもち出す議論も散見される。つまり,外国語学習はある一定の時期までに(たとえば思春期以前)開始しないと,その効果は限定的になってしまうという考えに基づく議論である。たしかに,母語獲得や第2言語獲得の場合にはそのような期間が存在する可能性を示唆する調査結果(Johnson,J.S.,& Newport,E.L.,1989など)が報告されているが,日本における英語教育のような外国語学習の場合に,そのような時期が存在することを示唆する調査結果はない。

【言語教育の構想】 母語教育としての国語教育と外国語教育としての英語教育は連携されるべきであるというのが,言語教育の構想である(大津・窪薗,2008など)。その主張をまとめると以下のようになる。

⑴ メタ認知能力が身につくとされる学齢前(5歳後半)や小学校段階では,学習者の母語を対象にメタ言語能力を育成する。母語を対象にするのは学習者にとって直感が利くからである。

⑵ 中学校段階では,⑴で育成されたメタ言語能力を利用して,英語の学習を開始する。母語で育成したメタ言語能力を外国語の学習に利用できるのは,ことばが普遍性をもつことによる。これまでの学校英語教育が効果を上げることができなかった根本的な理由は,⑴で育成されるべきメタ言語能力が育成されていなかったからと考えることができる。

⑶ 母語と外国語という,同質であり,同時にそれぞれの個別性をもつ二つの個別言語を身につけたことにより,メタ言語能力はいっそう豊かなものに育っていく。

⑷ 母語や外国語の効果的で,効率の良い運用は,メタ言語能力をさらに豊かなものにする。

⑸ そうして形成されたメタ言語能力は,語彙のいっそうの充実や言語表現のいっそうの洗練などの形で母語の知識を豊かにする。

 こうして,循環(サイクル)が形成されると,その循環が継続的に機能し,学習者の精神活動の根幹をなすことばの力がいかんなく発揮できる状態が実現する。これまでも言語教育の実現に向けた努力(野地潤家・垣田直巳・松元寛,1967など)がなかったわけではないが,実を結ぶことがなかった。それにはさまざまな理由が考えられるが,根本的な理由は母語教育と外国語教育を連携させるための堅固な基盤が見いだせなかったことによると考えられる。前記の言語教育の構想は,ことばの個別性と普遍性およびメタ言語能力を基盤として,この壁を乗り越えようとする試みと位置づけることができる。 →外国語教育 →第2言語習得
〔大津 由紀雄〕

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