イントネーション(読み)いんとねーしょん(英語表記)intonation

翻訳|intonation

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イントネーション」の意味・わかりやすい解説

イントネーション
いんとねーしょん
intonation

一般には、話しことばにおける声の抑揚をいう。音楽では無伴奏で歌われる単声聖歌の始めの部分。また、正確な音の高さをもいう。

 言語学では、話しことば、朗読などにおける声の高さの時間的変化をいう。句や文の終結と連続とを区別し、平叙文、断定文、命令文、疑問文の別を示し、また、喜怒哀楽など話者の感情を表出する。とくに統語構造、話の焦点などを明示するため、内容理解への影響が大きい。

 一般に、文の末尾は低く、次の句へ連続する場合の句末はやや高い。疑問文では文末が上昇する。上昇の度合いには、言語差および方言差があり、英語より日本語のほうが上昇幅が少なく、東京方言より近畿方言のほうがより少ない傾向がある。疑問文における末尾の上昇は各言語に共通する特徴と考えられているが、言語により異なる場合も少なくない。英語では、疑問詞が先行する文の末尾は上昇せず、Yes, Noで答えられる疑問文は末尾が上昇する。この種の言語は多いが、ロシア語では、「マーマ・ドーマ?」Мама дома?(お母さんはお家?)の場合、доで急に上昇し、末尾で急に下降する。

 いわゆる強弱アクセントの言語では、アクセントは強さ、イントネーションは高さの変化であるとされる。最近の実験結果によれば、アクセントのもっとも重要な成分は高さであり、強さ、長さおよび音質の変化がこれに伴う。イントネーションも高さの変化が主体であるが、これとともに、強さ、長さおよび音質の変化が伴う場合がある。たとえば、平叙文と疑問文とは末尾の基本周波数の変化(高さの変化)であり、喜び、怒り、悲しみなどの感情表現は、高さの変化だけではなく、音質と長さおよび強さの変化を伴う。

 感情表現における音響的特徴においても、人間としての普遍性があるとともに、言語による差異があり、英語より日本語のほうが変化が少ない。イントネーションに関しても、アクセントと同様に、生成(発話)と知覚(聞こえ)の両面から検討すべき点が多い。

[杉藤美代子]

『吉沢典男著「イントネーション」(『国立国語研究所報告18 話しことばの文型(1) 対話資料による研究』所収・1960・国立国語研究所)』『安倍勇著『日英イントネーション法』(1973・学書房)』『杉藤美代子著「アクセントとイントネーション」(国広哲弥編『日英比較講座1 音声と形態』所収・1980・大修館書店)・『日本人の声』(1994・和泉書院)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イントネーション」の意味・わかりやすい解説

イントネーション
intonation

広義では,音声連続においてみられる音の高さの変動の総称で,「音調」ともいわれる。音節音調,単語音調,句音調などもあるが,狭義では,文にあたる単位に現れる音調,すなわち「文音調」をさすのが普通である。アクセントが単語 (結合) について一定しており,単語の意味との関係が恣意的なのに対し,文音調は肯定,質問などの意味をもち,同一の単語のうえにいろいろの文音調が加わりうる点が異なる。東京方言では「切る」は/○˥○/,「着る」は/○「○/というアクセントをもつが,おのおのに対し,肯定/↘/,質問/↗/,問い返し/\↗/などの文音調が加わることができ,しかも,それぞれの場合において,アクセントの相対的区別は常に保たれる。また,文音調は,質問音調のほうが肯定音調よりも上昇の程度が大きいのが普通であるというように,心理的要因に支配される面が多いが,また社会慣習的決りでもあるから,言語 (方言) による差もある。

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