日本大百科全書(ニッポニカ) 「文章心理学」の意味・わかりやすい解説
文章心理学
ぶんしょうしんりがく
Psychology of Style
文章はコミュニケーションの道具であるとともに、それを書く人の心の表現であり、その人柄の特徴を示すものであるから、心理学的研究の対象になりうる。波多野完治(はたのかんじ)(1905―2001)は城戸幡太郎(きどまんたろう)の示唆により文章心理学の研究に入ったが、1935年(昭和10)に出版された彼の著書『文章心理学』は、この領域の研究に先鞭(せんべん)をつけたものである。彼はその後もほとんど独力でこの領域の研究を開拓していったが、65年(昭和40)に始まる『文章心理学大系』全6冊の刊行によって、文章心理学は日本の心理学のなかに確固とした地位を築いた。文章心理学は言語学(国語学)と心理学との学際的領域を扱う学問であるが、波多野完治は本来、心理学者であったから、彼の文章心理学も心理学的色彩が強く、社会心理学(社会学的心理学)、実験心理学、精神分析学、およびサイバネティックスによって支えられている。
いままで文章心理学が扱ってきたおもな研究領域を列挙すれば、文章心理学の学説、日本人作家(谷崎(たにざき)潤一郎、志賀直哉(しがなおや)、横光利一(よこみつりいち)ら)の文章の比較、男女作家の色彩感覚の特徴、実用文(新聞、広告、翻訳)の心理学、作家の性格類型、フランス人作家の創作心理学(ビネーの研究の紹介)、創造的思考の問題(将棋の場合を含む)、文章表現の心理学、文章とレトリックの関係など多方面にわたる。
[宇津木保]
『波多野完治著『文章心理学大系』全6冊(1965~66・大日本図書)』