断・理(読み)ことわり

精選版 日本国語大辞典 「断・理」の意味・読み・例文・類語

こと‐わり【断・理】

〘名〙 (動詞「ことわる(断)」の連用形の名詞化)
[一] (断)
① 事の理非を判別すること。判断。判定。決断。
源氏(1001‐14頃)帚木中将は此のことはり聞きはてむと、心入れてあへしらひ居給へり」
② 理由・事情・予定などを説明すること。
(イ) わけを説明すること。
今昔(1120頃か)四「仏師、心清く一塵不犯用ざりければ、裁(ことわ)り申に、仏二に別れ給へり」
(ロ) 前もって知らせること。予告。通告
※浮世草子・世間胸算用(1692)三「㝡前(さいぜん)引合したる太皷もちは、盗人の請に立けるとて、町へきびしき断(コトハリ)
(ハ) 届け出ること。届け出。
浄瑠璃・鑓の権三重帷子(1717)下「日数をふるは不調法と存、引返しただ今帰りがけすぐにことはり相済み、ちょっと立ながら両親にあはんため此仕合」
③ 申しわけを言うこと。
(イ) 申しわけ。言いわけ。
※源氏(1001‐14頃)宿木「いみじうことはりして聞ゆとも、いと著(しる)かるべきわざぞ」
(ロ) あやまること。謝罪。わびごと。〔和訓栞(1777‐1862)〕
辞退したり、拒絶したりすること。また、そのことば。辞退。
※栄花(1028‐92頃)駒競行幸年頃の風病、ことはり申して、まかりさりぬべかめりと申し給ふ」
[二] (理) 理非の判断の意から、道理・真理などの意に用いる。
① 人の力では、支配し動かすことのできない条理。道理。物ごとのすじ道。
書紀(720)崇神一〇年九月(北野本南北朝期訓)「大神対へて曰はく、言理(コトハリ)灼然(いやちこ)なり」
平家(13C前)一「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。娑羅(しゃら)双樹の花の色、盛者(じゃうしゃ)必衰のことはりをあらはす」
② 理づめのことば。道理にかなったことば。
※大唐西域記長寛元年点(1163)四「敢(かしこ)まりて大造(コトハリ)(〈別訓〉おほせごと)を承はぬ」
読本・椿説弓張月(1807‐11)続「『聖断その意を得がたく候』と、理(コトワリ)を竭(つく)して諫(いさ)めしかば」
③ 理由。わけ。よってきたるゆえん。また、理由などをあげてする弁明
※能因本枕(10C終)三一九「申の時にぞ、いみじうことはり言はせなどしてゆるして」
※仮名草子・伊曾保物語(1639頃)中「わが悪口をいふにあらず。そのことはりをこそ述べ候へ」
格式や、礼儀にかなっていること。礼儀。
※書紀(720)敏達元年六月(前田本訓)「有司(つかさ)、礼(コトハリ)を以て収め葬る」
⑤ (形動) それなりの理由のあること。当然であること。また、そのさま。もっともであるさま。そのはず。あたりまえ。
※竹取(9C末‐10C初)「翁、理に思ふ、此国に見えぬ玉の枝なり」
※源氏(1001‐14頃)須磨「心細くあはれなる御有様を、この御蔭にかくれてものし給へば、おぼし歎きたるさまもいとことはりなり」
⑥ ことわるまでもないこと。言うまでもないこと。もちろん。
※枕(10C終)二六二「わが得たらんはことわり、人のもとなるさへにくくこそあれ」
[語誌](1)成立については、動詞コトワル(断)の連用形の名詞化とするのが一般であるが、「万葉集」や「竹取物語」などの中古前期の和文資料には、動詞コトワルの例が見られず、中古中期の「源氏物語」などでも名詞、形容動詞の例に比べ、動詞の例はごくわずかであるところから、名詞コトワリが先に成立したとする説もある。
(2)(二)⑤の形容動詞的用法は、平安時代の物語類に多く見られ、話者が是非を言うときの決まり文句として「げにいとことわりなり」「ことわりなりや」などの形で使われることが多い。

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