新体詩(読み)シンタイシ

デジタル大辞泉 「新体詩」の意味・読み・例文・類語

しんたい‐し【新体詩】

明治後期に口語自由詩が現れる以前の文語定型詩。多く七五調で、明治15年(1882)外山正一らの「新体詩抄」に始まり、北村透谷島崎藤村土井晩翠どいばんすいなどの作によって発展、やがて近代詩の確立とともに単に「詩」と呼ばれるようになった。
[類語]うた詩歌韻文詩賦しふ吟詠ポエムバース詩編叙情詩叙事詩定型詩自由詩バラードソネット

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精選版 日本国語大辞典 「新体詩」の意味・読み・例文・類語

しんたい‐し【新体詩】

  1. 〘 名詞 〙 主として、明治末期に口語詩が起こる以前の明治文語詩をさす。外山正一らによる「新体詩抄」に始まり、北村透谷・島崎藤村・土井晩翠蒲原有明薄田泣菫らによって発展し、日本近代詩の源となった。
    1. [初出の実例]「卓辺の談話には束髪舞踏公園の逍遙男女交際新小説新躰詩美術演劇などと英語仏語までをかしくまぜて」(出典:硯友社(1893)〈島崎藤村〉)

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百科事典マイペディア 「新体詩」の意味・わかりやすい解説

新体詩【しんたいし】

明治初期,新時代にふさわしい思想や感情を表現すべく,西洋詩の影響のもとに創始された七五調,五七調の新詩形。外山正一矢田部良吉井上哲次郎共著の創作詩・訳詩集《新体詩抄》(1882年)に始まり,山田美妙尾崎紅葉らの《新体詞選》,落合直文の《孝女白菊の歌》などが出たのち,森鴎外らの訳詩集《於母影(おもかげ)》(1889年)で西欧風の近代抒情詩が初めて本格的に紹介された。中西梅花北村透谷与謝野鉄幹国木田独歩らを経て島崎藤村の《若菜集》(1897年)で最初の芸術的完成をみた。藤村・土井晩翠時代から薄田泣菫蒲原有明らの象徴詩時代に入ると詩はそのまま新体詩を意味するようになり,新体詩の名称は自然消滅した。
→関連項目我楽多文庫漢詩国府犀東文学界

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「新体詩」の意味・わかりやすい解説

新体詩
しんたいし

明治時代に生み出された文語定型詩をいう。1871年(明治4)の『仏和辞典』(好樹堂訳)にはPoème=詩、『英和字彙(じい)』(1873・日就社)ではPoetry=詩学と訳出されている。だが、明治時代は一般に、詩とは漢詩を意味していた。外山正一(とやままさかず)、矢田部良吉(りょうきち)とともに『新体詩抄』(1882.8)の撰者(せんじゃ)兼出板人である井上哲次郎は、ロングフェローの訳詩「玉の緒の歌」の序言で、「夫(そ)レ明治ノ歌ハ、明治ノ歌ナルベシ、古歌ナルベカラズ、日本ノ詩ハ日本ノ詩ナルベシ、漢詩ナルベカラズ、是(こ)レ新体ノ詩ノ作ル所以(ゆえん)ナリ」と主張した。新体詩の名称は、漢詩の古体詩・近体詩から喚起され、和歌や俳句のような伝統的な短詩型では表現できない、近代人の自由清新な感情や複雑深遠な思想を形象化するための、新詩型として成立した。唱歌、軍歌、賛美歌のスタイルともなり、H・スペンサー流の進化思想を背景とした、文学改良運動の典型的な成果である。竹内節(せつ)編『新体詩歌』、山田美妙(びみょう)編『新体詞選』などがベストセラーになり、湯浅半月(はんげつ)の「十二の石塚」、落合直文(なおぶみ)の「孝女白菊の歌」が初期の代表作。北村透谷(とうこく)、中西梅花(ばいか)、島崎藤村(とうそん)、土井晩翠(つちいばんすい)、薄田泣菫(すすきだきゅうきん)、与謝野鉄幹(よさのてっかん)、河井酔茗(すいめい)、蒲原有明(かんばらありあけ)らが、『文学界』『帝国文学』『明星』『文庫』『太陽』を舞台に新体詩を発展させ、明治30年代には隆盛期を迎えた。明治40年代に入り、自然主義の影響で、口語自由詩運動の展開とともに衰退した。

[千葉宣一]

『大和田建樹著『新体詩学』(1887・博文館)』『岩野泡鳴著『新体詩の作法』(1907・修文館)』『中島健蔵・矢野峰人監修『近代詩の成立と展開』(1956・矢島書房)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「新体詩」の意味・わかりやすい解説

新体詩
しんたいし

明治期の詩の一形態。名称は外山正一,矢田部良吉,井上哲次郎共編の『新体詩抄』に由来するが,旧来の和歌,俳諧,漢詩などに対して,ヨーロッパの詩歌の形式と精神を取入れた新しい形式の詩をいう。福沢諭吉の『世界国尽 (くにづくし) 』 (1869) は啓蒙を目的としたものだが,この種の試みの先駆とされ,また賛美歌の日本韻文律による翻訳 (74) も新しい詩形の誕生に影響を与えた。他方,明治 10年代 (77~86) には七五調を主体としたいわゆる唱歌体が形成された。それを代表するものに文部省編『小学唱歌集』 (81~84) がある。『新体詩抄』はそうした気運を背景に「明治ノ詩」を求めて編まれたが,それに続いて竹内節編『新体詩歌』 (82~83) などが現れ,新体詩の名称が一般化していった。普通,明治 40年代の北原白秋や三木露風の頃までの文語詩を新体詩と呼ぶ。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「新体詩」の解説

新体詩
しんたいし

明治期に作られた文語定型詩の総称。1882年(明治15)の「新体詩抄」ではじめて用いられた語。西洋の「ポエトリー」に範を求めて,旧来の漢詩や和歌・俳諧に対して,新しい詩を作ろうとした。その方法として,形式的には句と連との分かち書き,語法上では日常語の導入,内容的には「連続したる思想」の表出が提唱された。以後,「新体詩抄」の増補改訂版というべき「新体詩歌」諸版や,山田美妙編「新体詞選」などが刊行され,広く流布する一方,次々と入門作法書も発行された。はじめは既成の思想を七五調などの定型に盛っただけの詩編が多かったが,島崎藤村の「若菜集」に至り,内実をともなう詩的世界を獲得した。明治末期に「詩」の呼称が一般的になった。

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旺文社日本史事典 三訂版 「新体詩」の解説

新体詩
しんたいし

明治時代,西洋の詩の影響をうけて現れた新詩型
従来の漢詩に対比して,新時代の思想感情を盛るにふさわしい長詩型。1882年の『新体詩抄』に始まり,島崎藤村・土井晩翠・与謝野鉄幹・薄田泣菫 (すすきだきゆうきん) ・蒲原有明 (かんばらありあけ) らによって発展した。

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世界大百科事典(旧版)内の新体詩の言及

【イギリス文学】より


[日本文学との関係]
 明治初期の日本の詩人にとっても,まず読めた外国語は英語であったから,そのかぎりにおいて英詩の影響というものは否定できない。新しい詩魂を新しい詩型に盛ろうとこころみた〈新体詩〉において,叙事性が意外に強いこともその一つの表れかもしれない。しかし結局は自然に向けての詠嘆と抒情に流れたのも,長い日本の詩歌の伝統からすれば当然のなりゆきであったろう。…

【韻律】より

… そちとこちとは, (7)   松に藤の,さがり枝のごとく, (6・9(6・3))   たそがれどきに,かかる,(7・3) かかるなさけが,身にまつはるる。 (7・7)   明治になって西洋詩にのっとり〈新体詩〉が生まれたが,これは内容において単純な抒情以外,思想的理知的表現をも加えようとしたが,その形式は日本語の詩として当然古来の韻律たる7音5音などを主とし,それがさらに多くの詩人によって8・6,8・7,8・8その他いろいろの格調をつくった。また山田美妙や岩野泡鳴,蒲原有明のごとく,押韻らしい試みも行ったが,これは前述のように国語の性格上効果なく終わった。…

【雅歌】より

…この書にギリシア語,ペルシア語と結びつくヘブライ語が出てくるが,後から入れられたものと見れば,この説の反証にはならない。なお,雅歌が日本の新体詩に影響していることは,島崎藤村の《若菜集》に見られる〈ぶどう〉や〈狐〉の修辞的表現からも知られるといわれる。【関根 正雄】。…

【詩】より

…とりわけ日本語で〈詩〉といった場合には事情が複雑である。詩という呼称はもともと中国の文芸上の一様式をさすものであり,江戸時代までは詩といえばいわゆる漢詩をさしていたが,明治以降,西欧文芸におけるポエトリーpoetry(英語)またはポエジーpoésie(フランス語)の理念が導入された結果,現在では,詩といえば狭義には文芸の一部門としての新体詩およびそれ以後の近代詩,現代詩をさしながら,広義には言語芸術のうちで散文に対立する韻文芸術の総体を包括的にさすこともある言葉となった。しかし日本固有の韻文芸術は伝統的に詩とは呼ばれず,歌や句といった別種の呼称を現在でも守っているから,狭義の詩はしばしば短歌や俳句や歌謡と並ぶ表現様式の一つとして扱われる一方,広義の詩を言いあらわすためには便宜的に〈詩歌〉という言葉が使われたりする。…

【抒情詩】より

…たとえば中国においても,後述のように最古の詩集《詩経》以来,思想表現の詩とともに,抒情詩は文学の主柱でありつづけた。
[日本]
 明治以降の日本においては,ヨーロッパ近代詩の影響のもとに,詩の領域の拡大,詩の革新を企てた新体詩の運動が,抒情詩の新しい展開を起動させる最初の力となった。そして〈初より覚悟して抒情詩の上にのみ十分の発達を遂げしむるに若(し)かずと信ず〉と述べた国木田独歩をはじめ,6人の詩人の作を集めたアンソロジー《抒情詩》などを通して,新しい抒情詩の観念はしだいに広がってゆくことになった。…

※「新体詩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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