日本大百科全書(ニッポニカ) 「新大西洋憲章」の意味・わかりやすい解説
新大西洋憲章
しんたいせいようけんしょう
New Atlantic Charter
アメリカ大統領のバイデンとイギリス首相のB・ジョンソンが、イギリス・コーンウォールで開催されたG7(主要国首脳会議)に先だち、2021年6月10日に署名した共同宣言。第二次世界大戦中の1941年8月に、アメリカ大統領F・D・ルーズベルトとイギリス首相チャーチルにより発出された大西洋憲章にちなむ。米英両国が共有する価値に基づき、平和で繁栄した世界を築くため、他の民主主義諸国とも協力しつつ、新旧の課題に立ち向かう意思を確認した。具体的には以下の8項目を含む。(1)民主主義と開かれた社会の原理・価値・制度を守ること、(2)国際協調を支える制度・法・規範を強化すること、(3)国家主権・領土の一体性・紛争の平和的解決の諸原則をともに擁護すること、(4)安全保障や雇用創出のために、科学技術革新における優位を維持・活用すること、(5)サイバー脅威も含め、あらゆる種類の脅威に対する集団安全保障と国際的な安定性やレジリエンス(回復力)を維持する責任を共有すること、北大西洋条約機構(NATO(ナトー))を防衛するために、両国の核抑止力を用いること、(6)包括的で、公正で、環境に優しく、持続可能で、ルールに基づくグローバル経済を構築すること、(7)気候危機への対処・生物多様性の維持・自然保護をあらゆる国際的行動に際して優先すること、(8)医療制度強化・健康保護のために協力すること。
新大西洋憲章署名の背景には、2021年が大西洋憲章制定の80周年という歴史的な節目にあたることに加えて、EU(ヨーロッパ連合)を離脱したイギリスのために新たな国際的役割をみいだしたいジョンソンと、対中強硬姿勢に対する同盟国の支持を獲得し、多国間秩序へのアメリカの関与を強調したいバイデンの思惑が一致したという事情があった。コーンウォールG7首脳会合の際には、米英両国がオーストラリアに攻撃型原子力潜水艦を提供する米英豪の安全保障パートナーシップ、AUKUS(オーカス)も基本合意に至るなど、名指しこそしないものの、新大西洋憲章は中国・ロシアなど権威主義諸国への対抗を念頭に置いたものである。
[池本大輔 2023年6月19日]