日本大百科全書(ニッポニカ) 「新皿屋敷月雨暈」の意味・わかりやすい解説
新皿屋敷月雨暈
しんさらやしきつきのあまがさ
歌舞伎(かぶき)脚本。世話物。3幕。河竹黙阿弥(もくあみ)作。1883年(明治16)5月、東京・市村座で、5世尾上菊五郎(おのえきくごろう)のお蔦(つた)と魚屋宗五郎により初演。題名のとおり浄瑠璃(じょうるり)・歌舞伎に古くからある「皿屋敷」の怪談伝説の新脚色だが、中心は二幕目「魚宗(うおそう)内」と三幕目「磯部(いそべ)邸」にみられる宗五郎の酔態にあり、この2幕だけを上演することが多いので、通称は「魚屋宗五郎」「魚宗」。魚屋宗五郎の妹お蔦は磯部主計之介(かずえのすけ)の愛妾(あいしょう)であったが、奸臣(かんしん)岩上典蔵(いわがみてんぞう)の邪恋をはねつけたため、その讒言(ざんげん)で若侍浦戸紋三郎との不義の罪と家宝の茶碗(ちゃわん)を割った罪を着せられ、怒った殿に責め殺される。宗五郎はお蔦の召使いおなぎから真相を聞くと、悲憤のあまり禁酒を破り、大酔(たいすい)して磯部の邸へ暴れ込み、玄関先で縛られるが、家老浦戸十左衛門の計らいで救われ、主計之介は悔い、典蔵一味は成敗される。宗五郎の役は5世菊五郎の生世話(きぜわ)芸を6世菊五郎が受け継いで妙味を発揮、その有数の当り役になり、さらにこれを2世尾上松緑(しょうろく)が継承していた。
[松井俊諭]