改訂新版 世界大百科事典 「番町皿屋敷」の意味・わかりやすい解説
番町皿屋敷 (ばんちょうさらやしき)
戯曲。1幕。岡本綺堂作。1916年2月東京本郷座初演。配役は青山播磨を2世市川左団次,腰元お菊を2世市川松蔦,柴田十太夫を市川左升,放駒四郎兵衛を6世市川寿美蔵(のちの3世寿海),権次を市川荒次郎。古来からの皿屋敷伝説をふまえながらも,お菊の亡霊を出さず,近代人にも共感される恋の悲劇として作られ,盛行する。杏花戯曲十種の一。旗本青山播磨は旗本奴白柄組に属し,町奴の放駒との出会いに血気さかんな行状ぶり。伯母は嫁とりをすすめるが播磨は腰元のお菊を愛している。お菊も播磨を愛しているが,結婚話を聞いて,女心から男の心をためそうと青山家の重宝の皿の一つを割る。故意に割ったことを知った播磨は,自分が信じてもらえなかったことを激しく怒り,お菊をいったんは許しながらも残りの皿を割ったのち,ついにお菊を手討ちにする。青春の直情を明快に描いた名作で,現在もさかんに上演される。苔のはえたような皿屋敷物から,ロマンの香り高い新歌舞伎として再生させた作者の手腕は非凡で,片岡孝夫・坂東玉三郎のコンビにまで受けつがれて色あせない。初演の左団次は幕切れの引込みに,欧州演劇から学んだ直線的でリアルな動きを伝えた。
執筆者:落合 清彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報