改訂新版 世界大百科事典 「新科学講話」の意味・わかりやすい解説
新科学講話 (しんかがくこうわ)
《天文対話》とならぶG.ガリレイの主著。1638年に出版された。正式の題名は《機械学と場所運動に関する二つの新科学についての講話と数学的証明Discorsi e dimostrazioni matematiche intorno a due nuove scienze attinenti alla meccanica ed ai movimenti locali》であるが,長すぎるために通常《新科学講話》,あるいは《新科学対話》と呼ばれることが多い。《天文対話》と同じく3人の登場人物(ガリレイの代弁者サルビアーティ,アリストテレス主義者のシンプリチオ,良識人のサグレド)の4日間にわたる対話として構成されているが,この著作では表現形式としての対話体が必ずしも成功を収めているとはいえない。
まず第1日目では真空,音響学,無限のパラドックス,振子などに関する諸問題が対話のおもむくままに縦横に論じられるが,これらの研究はいずれも次代の研究者に大きな影響を及ぼすことになったものである。例えば真空の問題に関連して強調された重要な知見,つまり吸上げポンプにおける水の上昇は約10m以上になることはなく,したがって自然の〈真空嫌悪〉の力は有限であるという知見は,ガリレイの弟子E.トリチェリをして,いわゆる〈トリチェリの真空〉の発見へと導き,次いでパスカルなどによる大気圧と真空についての多彩な研究を生み出す源泉となった。また第2日目では,同一の物質でできた構造物が,幾何学的には相似形をしていても,大きいものほど破壊に対する抵抗力が小さいのはなぜかという当時の建造技術上の難問題がとり上げられる。この問題はてこの原理の巧みな適用によって幾何学的に解明されるが,これはのちの材料力学にとって出発点となる成果であった。
しかし歴史的な観点からみて,第1日目と第2日目の内容よりもはるかに重要な意義を有するのは,第3日目と第4日目である。第3日目の前半では,まず等速度運動の概念が定義され,この運動に関して時間と距離の間の数学的関係が一連の命題として演繹される。次いで等加速度運動が定義され,これと等速度運動がいわゆるマートンの規則を介して結びつけられる。そして静止から出発する等加速度運動の通過距離が経過時間の2乗に比例することが導出される。さらに以上のような数学的定義と証明の途上で,自然落下運動がまぎれもなく等加速度運動であることが主張され,その主張が斜面上での金属球の落下実験を頂点とするさまざまな考察によって裏づけられる。第3日目の後半では,前半でのこのような成果に立脚して,斜面上での自然落下運動の数学的特質が詳細に分析されるとともに,単振子の運動の解明が試みられる。さらに最後の第4日目は投射体の運動の研究にあてられている。ここでは慣性の法則,運動の合成の法則,落体の法則を適用することによって,空気の抵抗を無視しうる範囲では,投射体の経路が双曲線となること,したがって同一速度で投射された物体は迎え角が45度のときに最大射程を有することが証明される。
本書で行われた以上のような研究,なかんずく運動に関する研究は,ガリレイがスコラ的な自然観の束縛からほぼ完全に離脱して,近代的な数学的科学の概念的基礎を確立したことを明りょうに示している。
執筆者:横山 雅彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報