熱力学、流体力学、振動学などとともに広い意味での応用力学の一分野であり、工学の基礎学問の一つである。種々の工業材料でつくられる機械や構造物およびその構成部材が、さまざまの外力を受けるときの力学的挙動、すなわち応力、変形、強さなどを、弾性学、塑性学、材料強度学などを基礎にして理論と実験の両面から考究し、さらに実際の設計に活用できるように工学的近似、簡素化を行ったものである。工業材料をその特性に応じて、目的により適切に使用し、機械や構造物の各部分の強度や剛性を合理的なものとして、その機能を安定して果たし、さらに経済的にももっとも有利なように設計を行うのが材料力学の主要な目的である。
[林 邦夫]
材料力学の起源は古く、寺院、橋梁(きょうりょう)、城塞(じょうさい)などの建造物を数多く残したギリシア、ローマの人々も、ほとんどが経験の積み重ねによるものにしろ、安全な建造物をつくるための材料力学的知識をもっていたものと思われるが、彼らが築き上げたこの構造工学の知識も中世にはその多くが失われ、ルネサンス期に復活するまでは、まったく進歩しなかった。偉大な芸術家のみならず科学・技術上の業績をも多く残したレオナルド・ダ・ビンチは、柱や梁(はり)に作用する力を求めるのに静力学を適用しようとし、材料の強さを調べるための実験を行った最初の人であった。物体に力を加えると弾性的および塑性的変形を生ずることは、材料の基本的性質であるにもかかわらず、歴史的には材料の破壊に対する強さがまず注目された。ガリレイは多くの実験を行い、棒や梁の破壊強度に関する理論を導き、著書『新科学対話』に発表した。これが材料力学に関係する最初の出版物といわれている。その後、R・フックが、今日でもフックの法則として知られる弾性変形の規則をみいだし、材料の変形に関する研究の端緒となった。18世紀に入ると、数学や力学の発展とともに、多くの学者により材料力学もしだいに体系化され、技術者の教育制度も確立して、実際の設計に利用されるようになった。機械文明が今日の隆盛をみたのも、機械や構造物の設計の合理化に材料力学が大いに活用されたことによる。なお、現在の材料力学の体系はロシア系のアメリカの工学者ティモシェンコStephen P. Timoshenko(1878―1972)に負うところが大きい。彼が著した多くの著書は世界各国で翻訳され、各地の大学で教科書、参考書として使用されてきた。近年、コンピュータの普及や材料強度学の進歩、弾性以外の変形挙動の重要性の増大などにより、材料力学の内容も変わりつつあるように思われ、日増しに高まる厳しい設計要件に対応すべく進歩を続けている。日本機械学会編の『機械工学便覧』によれば、材料力学の内容は以下のとおりである。
[林 邦夫]
機械、構造物およびその構成要素は、それが機能するとき、さまざまな荷重を受け、またその位置を確定するために支持されている。荷重の種類、支持の仕方により力学的応答は異なるので、これらが分類整理される。固体材料は一般に力を受けると変形し、この変形に抵抗して材料内部に力を生ずる。これを記述するために応力、ひずみの概念を導入して材料力学の基本となるつり合い方程式、適合条件式が導かれる。
[林 邦夫]
固体材料の変形様式はさまざまであるが、弾性変形、塑性変形、粘弾性変形に分類される。これらの変形則を記述し、それを支配する材料定数を定義する。フックの法則は弾性変形則であり、弾性係数は応力とひずみとの間の比例定数である。また材料は変形を受けるとき、外力の果たした仕事は、一部分は熱に、残りは位置のエネルギーとして材料内部に蓄えられる。これはひずみエネルギーとよばれ、材料力学における重要な概念の一つである。伸縮されたばねは元の長さに戻ろうとする弾性ひずみエネルギーを内蔵したわけである。材料の形状により応力の分布は変化するが、孔(あな)や段があるとその部分での応力は他の部分に比較してきわめて大きくなる。この現象を応力集中といい、強度劣化の原因となるので、十分解明する必要がある。とくに亀裂(きれつ)の存在は重大であり、その目安として応力拡大係数が定義され検討される。粘弾性とは、弾性体(固体)と粘性体(流体)の両方の性質をあわせもつ物体を対象とし、荷重や支持条件が変化しない場合でも材料内部の応力やひずみが時間とともに変化する性質である。高温では金属材料もこの性質を示す。また、長時間スケールではコンクリートも粘弾性体として扱える。近年、プラスチックが工業材料として多用されるようになり、また金属材料の使用条件も過酷になってきているので、材料の粘弾性挙動に関する研究が精力的に進められている。
[林 邦夫・中條祐一]
材料に加わる力が大きくなるとついには破壊するが、破壊の様相は材料や荷重の種類により多様である。各種の材料試験結果を基に静的強度、疲労強度、衝撃強度、クリープ強度などを求め、それらに対する温度や形状などの影響を明らかにする。さらに許容応力、安全率の概念を導入して設計の指針を与える。
[林 邦夫]
機械や構造物を構成する部材としてもっとも広く用いられるのは棒状の材料である。棒がその中心線に垂直な荷重のもとに曲げ作用を受ける場合、この棒を梁という。また長さ方向に圧縮荷重を受けるときは柱、ねじりを受ける場合を軸という。これらの部材に生ずる内力と変形を弾性学の理論に工学的近似を導入して設計に有用な形に整理する。変形に対する抵抗を表す剛性は材料特性と断面形状とにより与えられるが、その評価方法を示す。断面積に比較して長い柱の場合には、圧縮荷重がある限界値に近くなると急に横たわみが増大する現象がある。これは座屈とよばれ、柱の設計には十分注意すべき事項である。
[林 邦夫]
機械や構造物の軽量化は、材料の節約のみならず、自動車や航空機のように動力を用いて運動するものでは性能の向上、運転経費の低減につながる。平板、円筒、球は軽量構造の基本であり、卵の殻のような殻構造はその代表である。これらの板部材がその板面に垂直な荷重を受けるときの曲げ、面内力による座屈の解明は、薄板構造の設計上不可欠である。また近年ガラス繊維や炭素繊維でプラスチックを補強した複合材料が工業材料として重用されているが、このような異方性をもつ複合材料の力学的性質の究明も重要である。
[林 邦夫]
機械や構造物は一般に平板や曲面板と、梁や柱とを結合した複雑な組立構造である。これは骨組構造、薄肉梁構造、平板構造、殻構造などに分類されるが、なるべく簡潔で、しかも構造の力学的挙動の本質を失わない解析法が必要である。要求される精度に応じて工学的近似を駆使し、実用的設計式が導かれる。これらの実用計算式は注意深い実験による裏づけを必要とする。
[林 邦夫]
複雑な形状や構造をもち、荷重や支持条件も多岐にわたる機械や構造物の応力、変形の解析の精度向上への要請の高まりと、20世紀中ごろに実用化されたコンピュータの性能向上とが生み出した近似数値解析法が有限要素法である。設計条件が厳しくなったことと、コンピュータの普及という時代的背景のもとに、マトリックス代数を介して、迅速で手際よく数値計算できるように解析手順を組織化し、最小限のモデル化で応力、変形を求められる有限要素法が急速に進歩し、材料力学の重要な一分野となっている。
材料力学には以上列記した事項のほかに、機械加工に伴う材料の力学的挙動の解明や、実際の機械や構造物の応力や変形を実験的に求める技術の開発も、その重要な部門として含まれている。
[林 邦夫]
材料や部材あるいはそれらによって構成される構造全体の外力に対する変形や破壊の性質を調べ,それらの強さ,安定性,剛性などを研究する学問分野。工学のほとんどすべての分野において重要な基礎学問となっている。材料力学の目的は,機械や構造物の材料や形状,寸法を最適化することにより,経済性と安全性を兼ね備えた合理的な設計と使用の方法を与えることにある。広い分野にわたる学際的性格の強い学問であるが,その中心は物体の内力と変形の状態を理論的に求めようとする理論応力解析法である。これは,固体の運動方程式,変形の幾何学的性質を示すひずみと変位の式などを,与えられた力学的・幾何学的境界条件の下で解くことにより,物体内の応力とひずみを求めるものであって,固体力学とも呼ばれている。取り扱う材料の力学的性質によって弾性学,塑性学,粘弾性学,クリープ力学などに分けられ,また形状や力の加わり方の特徴に着目して,物体を棒,はり,板,殻などのモデルに近似し応力を求める構造力学は実用上重要であり,歴史的にみた場合材料力学はこれから出発したといえる。近年ではコンピューターの発達に伴って有限要素法などによる数値応力解析法が実用上有力な方法となっているが,理論的・数値的解法以外にも,ひずみゲージ法,光弾性法,モワレ法,応力塗料,X線回折法などによる実験応力解析法も用いられる。今日,このような応力解析法とともに,材料の機械的性質を力学,物性の立場から理論的に取り扱うことを目的とする材料強度学も材料力学の中心課題となっており,亀裂のある物体を取り扱う破壊力学は工業上も多大の寄与をしている。
物体の強さという概念は古くから存在したものと思われるが,材料力学として体系化される契機となったのは,ガリレイが提案したはりの強さを求める問題であるといわれ,これを解くための努力が続けられる過程で材料力学が形成されてきた。すなわち,まず応力の概念の形成,弾性に関するフックの法則の発見を経て,ニュートン力学の形成とともに18世紀にはL.オイラー,D.ベルヌーイによるはり,棒の弾性変形の研究がなされ,19世紀のベルヌーイ=ナビエのはり理論の完成,A.L.コーシーによる弾性の基礎理論の確立へとつながるのである。
執筆者:朝田 泰英
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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