日ロ漁業問題(読み)にちろぎょぎょうもんだい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「日ロ漁業問題」の意味・わかりやすい解説

日ロ漁業問題
にちろぎょぎょうもんだい

日本とソビエト連邦ロシア連邦との漁業をめぐる問題。第二次世界大戦後、1952年(昭和27)に対日講和条約発効したことによって、連合国最高司令部による管理を解かれた日本漁船は、北洋サケ・マス公海漁業に進出したが、56年3月21日に当時のソ連は、オホーツク海およびベーリング海にいわゆるブルガーニン・ラインを設定し、同ライン内水域でのサケ・マス漁業を制限し、その操業にはソ連の許可を必要とするソ連大臣会議決定を行った。

[水上千之]

日ソ漁業条約

この措置によってわが国のサケ・マス漁業は重大な影響を受けたため、ソ連との間に急遽(きゅうきょ)漁業交渉が開始され、1956年5月14日に「北西太平洋の公海における漁業に関する日本国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約」(日ソ漁業条約)が署名され、この条約は、日ソ共同宣言の発効と同じ同年12月12日に発効した。この条約は、両国が漁業資源の保存・発展のために協同措置をとることとし、北西太平洋日ソ漁業委員会を設置して、同委員会が協同措置が適切であるかどうかの検討、年間漁獲量の決定などを行うこととし、また、附属書では、サケ、マス、ニシンカニ規制区域漁期、網目制限などの規制を行った。とくに問題になったのは、実際上わが国のみが公海上で漁獲していたサケ・マスであり、利害対立により交渉はつねに長引いた。なお、カニについては、カニが大陸棚資源かどうかについての日ソの立場の相違から、のちに、日ソカニ協定で扱うこととされた(1976年まで)。

[水上千之]

日ソ漁業暫定協定

1976年12月10日ソ連が最高会議幹部会令により200海里漁業水域を設定し、日本もまた翌77年5月2日に漁業水域に関する暫定措置法を制定し、200海里漁業水域を設定したことに伴い、それぞれ相手国200海里水域内で行う漁業についての交渉が行われた。同年3月からソ連の200海里水域内でのわが国漁船の漁業の手続および条件について取り決めるための交渉が行われ、北方領土問題をめぐって交渉は難航したが、領土問題に関するわが国の立場を害することのない形で最終的に合意をみるに至り、同77年6月に「日ソ」漁業暫定協定が締結された。また、わが国の200海里水域内でのソ連漁船の漁業の手続および条件について取り決める「ソ日」漁業暫定協定が同年12月に締結された。これらの協定は、有効期間がいずれも同年末までとされていたが、その後、これらの協定の有効期間は、毎年1年間ずつ延長された。

[水上千之]

日ソ漁業協力協定

また、1977年4月29日にソ連が1956年の日ソ漁業条約の廃棄を通報し、同条約が78年4月29日に失効することに伴い、北西太平洋の200海里以遠水域におけるサケ・マス漁業の問題を含め、日ソ間の漁業協力に関する交渉が77年9月以来行われ、78年4月21日に日ソ漁業条約にかわる日ソ漁業協力協定およびこの協定に基づくいわゆるサケ・マス議定書が成立し、議定書の有効期間は1年ずつ延長された。その後、1982年の国連海洋法条約が採択され、84年にソ連が排他的経済水域を設定したことに伴い、それまでの日ソ漁業協力協定とサケ・マス議定書を一本化する形で、85年5月に新しい日ソ漁業協力協定が締結された。この協定は、サケ・マスの取扱いと一般的な漁業の分野における日ソ間の協力を定めるもので、サケ・マスについては、母川国が第一義的利益と責任を有すること、母川国が200海里の内側および外側の水域における自国の溯河(さくか)性魚種の漁獲に対する適当な規制措置を定めること、200海里外の溯河性魚種の規制は母川国と関係国の合意によること、などを定めた。

 また、日ソがそれぞれ相手国の200海里水域内で行う漁業については、「日ソ」「ソ日」漁業暫定協定を一本化する形で、日ソ地先沖合漁業協定が1984年12月7日に署名された。

[水上千之]

ロシア連邦による引き継ぎ

この協定は、1991年(平成3)12月以降、国家としてソ連を引き継いだロシア連邦との間で引き続き有効である。98年2月21日には、北方四島周辺海域(12海里)における日本漁船の安全操業の枠組みを定める「日本国政府とロシア連邦政府との間の海洋生物資源についての操業の分野における協力の若干の事項に関する協定」がロシアと日本との間で署名された(98年5月21日発効)。この協定には違法操業に対する取締りの規定がない。この協定に基づきスケトウダラ刺し網漁業、ホッケ刺し網漁業等が、同水域で行われている。

 また、1988年以降、日ソ、日ロ間で合弁企業が多数設立されている。事業内容は、サケ・マスの人工孵化(ふか)、放流、漁獲、販売、マダラ、カニ、エビ等の漁獲、水産加工であり、こうした合弁事業によるわが国漁船のロシア水域での操業、ロシアからのわが国への水産物の輸入も行われている。

[水上千之]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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