読本。山東京伝作。歌川豊国画。1806年(文化3)刊。歌舞伎狂言や浮世草子《契情阿国歌舞伎(けいせいおくにかぶき)》(1730)で著名な不破伴左衛門と名古屋山三郎の抗争を,大和国守佐々木家のお家騒動のなかに持ち込んだ伝奇小説。山三郎と遊女葛城(実は不破の妹)の恋愛や,白拍子藤波を殺した忠臣佐々良三八一家が長く怨霊に苦しめられる因果譚などが,蟹満寺(かにまんじ)縁起その他本邦の昔話,民話を豊富に織りこんだ趣向によって語られ,複雑な筋立ての,京伝独自の幻怪華麗な物語的迷宮世界を形成している。何度も演劇化され,のちの歌舞伎狂言《鞘当(さやあて)》の原作となった作品で,曲亭馬琴の硬質な作風と対蹠的な,京伝読本の典型的な作風を見ることができる。
執筆者:高田 衛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
江戸後期の読本(よみほん)。山東京伝(さんとうきょうでん)作、歌川豊国(とよくに)画。1806年(文化3)江戸西村宗七等刊。足利義政(あしかがよしまさ)将軍のころ、大和(やまと)国佐々木貞国(さだくに)家では、妾(めかけ)の蜘手(くもで)の方(かた)が子の花形丸に家督をとらせようとし、それを奸臣(かんしん)不破伴左衛門(ふわばんざえもん)、悪修験(しゅげん)者頼豪院(らいごういん)らが後押しするが、貞国の嫡子桂之助(かつらのすけ)とその子月若丸を守る忠臣名古屋山三郎、梅津嘉門(うめつかもん)らはこれを滅ぼす。近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』や『伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)』『伊達競阿国戯場(だてくらべおくにかぶき)』を踏まえ、浄瑠璃、歌舞伎(かぶき)の草履打(ぞうりうち)・鞘当(さやあて)の見せ場を巧みに転化する。また、京伝の近世初期風俗、伝説、絵画、歌謡に関する考証が付会される。多くの説話が複雑に交錯して、筋がつかみにくいきらいもあるが、京伝読本の頂点をなす作品であろう。
[徳田 武]
『『昔話稲妻表紙』(有朋堂文庫)』
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