春秋学(読み)しゅんじゅうがく

日本大百科全書(ニッポニカ) 「春秋学」の意味・わかりやすい解説

春秋学
しゅんじゅうがく

儒教経典春秋』と、その解説書の春秋三伝といわれる『公羊伝(くようでん)』『穀梁伝(こくりょうでん)』『左氏伝(さしでん)』に載せる歴史事実を対象とし、さらにその事実がどう記述されているかをみることによって、孔子(こうし)の政治的、道徳的見解を考究する学問。董仲舒(とうちゅうじょ)の建言で武帝(ぶてい)期(前140~前87)に儒教一尊の体制ができあがるが、両漢を通じてその中心に据えられたのは王者の大一統を説く公羊学であった。後漢(ごかん)に何休(かきゅう)の『解詁(かいこ)』(①)が出て漢代公羊学をまとめた。穀梁学は宣帝期(前73~前49)に一時盛行したが、学的特色が薄く、のちに衰えた。晋(しん)の范寧(はんねい)の注『集解(しっかい)』(②)がある。公・穀とはテキストの系統が違う『左氏伝』は、前漢末に劉歆(りゅうきん)の手によって世に出た。『左氏伝』は歴史事実に富み、覇者賢人の言動、各国の駆け引きが生き生きと描かれており文学的味わいが深い。晋の杜預(どよ)の注『集解』(③)が出ると、以後二伝を圧倒した。唐から宋(そう)初にかけて①②③に注釈が加えられた。いまそれらは『十三経注疏(じゅうさんぎょうちゅうそ)』のなかに数えられている。唐にはまた啖助(たんじょ)らのように三伝を排して経文に即して独自の解釈をなす者も出た。宋では王安石(おうあんせき)が「断爛朝報(だんらんちょうほう)(切れ切れの官報)」と『春秋』をけなしたが、北方異民族の侵入もあって、士大夫(したいふ)(官僚層)の間では尊王攘夷(そんのうじょうい)、復讐(ふくしゅう)是認の春秋学が盛行した。朱子学の重んじる胡安国(こあんこく)の『胡氏(こし)伝』はその一例。異民族支配の清(しん)朝中期には、孔広森(こうこうしん)、劉逢禄(りゅうほうろく)らによって公羊学が盛んとなった。清末にはこの学派から康有為(こうゆうい)のように革命思想を説く者も出てきた。

[辺土名朝邦]

『日原利国著『春秋公羊伝の研究』(1976・創文社)』『鎌田正著『左伝の成立と其の展開』(1963・大修館書店)』『佐川修著『春秋学論考』(1983・東方書店)』

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