改訂新版 世界大百科事典 「暦象新書」の意味・わかりやすい解説
暦象新書 (れきしょうしんしょ)
江戸後期の物理学,天文学に関する翻訳本。暦象とあるが暦の本ではない。イギリスのオックスフォード大学のケイルJohn Keill(1671-1721)のラテン語の著述を,オランダのルロフスJohan Lulofsがオランダ訳した《In leidinge tot de waare Natuuren Sterrekunde》(1741)を志筑忠雄が訳述したもの。上・中・下の3編からなり,1798年から1802年にかけてまとめられた。志筑はこの翻訳に当たり原書の説明の不十分な点は自説を入れて補い,あるいは独創的な説を新たに加えるなど,原著とは別な価値を本書に与えた。ニュートンの慣性の法則,万有引力の法則,さらには惑星に関するケプラーの法則など,当時の日本人にはまったく新しい西洋式の力学,天文学の理論を紹介した本書は,日本の科学史上画期的な優れた本として高く評価されている。最後につけられている〈混沌(こんとん)分判図説〉はカント=ラプラスの太陽系成因に関する星雲説に類似するもので,志筑の独創性を証明している。
執筆者:内田 正男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報