インド仏教の唯識(ゆいしき)説で主張された重要な用語。末那はサンスクリット語のマナスmanasの音写。唯識説では、感覚器官に基づく五識(しき)と、それを推理判断する意識との計六つの識のほかに、その背後で絶えず働いている自我意識の存在を認め、これをマナス(思い量る意)もしくはクリシュタ・マナスklia-manas(染汚意)とよんだ。これは、さらにその深層に存在すると考えられた第八識の阿頼耶識(あらやしき)を対象として、それを自我であると思い込む意識とされた。それが玄奘(げんじょう)訳を介して末那識あるいは第七識として中国や日本に伝えられ、仏教的認識論に重要な役割を果たした。
[袴谷憲昭]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…〈般若経〉に説かれる空の思想を受け継ぎながら,空を虚無主義ととらえる傾向を是正しようと,ヨーガの実践を好む人びとによって説かれ,〈あらゆる存在は心がつくり出した影像にすぎない〉という禅定体験に基づいているとされる。この説の特徴は,従来の6種の識(眼,耳,鼻,舌,身,意の六識)のほかに,あらゆる表象としての存在を生み出す根本識として,そのメカニズムを担う種子を蔵しているアーラヤ識(阿頼耶識(あらやしき))と,根源的な自我執着意識である末那識(まなしき)との二つの深層心理を立てたことである。また,存在のあり方を認識主観とのかかわりによって遍計所執性(へんげしよしゆうしよう)(主客として実在視されたあり方),依他起性(えたきしよう)(縁起によって生じている相),円成実性(えんじようじつしよう)(主客の実在視をはなれた真実のすがた)の三つに分ける三性説,およびそれを否定的に表現した三無性説も唯識説独自の思想である。…
※「末那識」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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