改訂新版 世界大百科事典 「本朝無題詩」の意味・わかりやすい解説
本朝無題詩 (ほんちょうむだいし)
平安朝末期の漢詩集。1162-64年(応保2-長寛2)前後に成立か。撰者未詳だが,藤原周光(ちかみつ)が有力視される。また藤原忠通が成立になんらか関与したと思われる。五,七言句題詩総集に対蹠的な概念として〈無題詩〉と名づけたもの。現存は10巻本と3巻本があり,七言律詩がほとんどで770首余を収める。周光,忠通,藤原敦光,藤原明衡らの多数入集者のほか,当代の有力詩人を網羅。詠ずるのは,風月,詩魔,山居,飄泊,庶民,来迎などの世界で,王朝漢詩文が唯美的頽廃傾向に進む様相をうかがわせる。《本朝無題詩》には漢詩世界の西行ともいうべき漂泊詩人蓮禅の西海舟中の連作があり,〈厨女(くりやめ)は偸(ひそ)かにわが夜の薬を煮るを嘲り,棹郎(かこ)は各々朝の飡(くいもの)の乏(とも)しらなることを怒る,持経の二品(にほん)は囊(ふくろ)に収めて掛け,本仏の一龕(いちがん)は舳(へ)を払って安んず〉(〈遅く江の泊に留まりて戯れに舟中の事を賦す〉巻七)というように,故事にまつわる句や古い歌言葉を使わず日常のことばを用いた王朝後期の白描詩的な特色がある。
執筆者:川口 久雄
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報