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東南アジア音楽 とうなんアジアおんがくSoutheast Asian music

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

東南アジア音楽
とうなんアジアおんがく
Southeast Asian music

インドシナ半島とインドネシア,マレーシア諸島の音楽を一括していう。古代ではインドおよびヒンドゥー文化の音楽の支配下にあったが,中世以後,イスラム文化の影響も受け,民族色によって分れはじめた。インドシナ半島は,中国系のベトナム音楽,インド系のビルマ音楽の2つの系統と,インドネシアからの影響を受けながら,古代クメール文化以来の音楽を伝承したカンボジア,タイの音楽,そしてインドネシアの影響の強いマレーシアの音楽に分れる。特にタイの舞踊歌劇は,歌,楽器合奏,舞踊の総合芸術として最も進んでいる。音律が世界に珍しい7等分平均律に近い音律であるところに特色がある。インドネシア諸島は,ジャワ,バリ島のガムラン大合奏を中心に,フィリピン群島にも広がる。ガムランは,各種の金属製旋律打楽器を中心とする合奏で,儀式舞踊,舞踊劇,人形劇,影絵劇の伴奏として発達した。多音性 (和音) の少いアジアでは珍しく独特の和音合奏を行う。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

東南アジア音楽
とうなんあじあおんがく

インドシナ半島からマレー半島を経て、インドネシアやフィリピンの島嶼(とうしょ)部に至る地域の音楽。この地域の音楽文化は、複雑な民族構成とたび重なる外来文化の混入や浸透により、多様な様相を呈している。
 歴史的にみると、神話やアニミズムを基調とする土着の基層文化のうえに、古くから仏教、ヒンドゥー教の流れとともにインドの古代音楽が伝わり、ジャワ島のボロブドゥールやカンボジアのアンコール・ワットの遺跡にその一部がかいまみられるような高度な音楽を開花させた。同時に、木琴やゴング・チャイム(セットにしたゴングからなる旋律打楽器)など東南アジア特有の楽器もしだいに発達してゆき、13、4世紀ごろから各民族独自の音楽や芸能を展開させていった。その間、中国系、イスラム系、さらには西欧系の音楽や楽器も混入し、それらが融合された形跡も残っている。その多様性にもかかわらず、次のような点が全体的特徴として抽出できる。[川口明子]

全体的特徴

(1)音楽は、独立して鑑賞する場合もまれにはあるが、信仰や宗教儀式、通過儀礼、年中行事などと深く結び付いて生活の一部として発達してきた。音楽、舞踊、演劇は一体となって演じられるのが通例で、そこから表出される音の世界は、単なる恣意(しい)的表現以上の象徴性や社会的・文化的機能をも備えている。たとえば、ゴングを神聖視して奉ったり、各種の旋法にさまざまな感情や時の流れとの対応をもたせて意味づけしたりすることは、一種の世界観、宇宙観の表れといえよう。
(2)各種のゴングが豊富で、とりわけゴング・チャイムや木琴、鉄琴などの旋律打楽器を中心とする合奏が盛んである。インドネシアやマレーシアのガムラン、タイのピー・パート、ミンダナオ島やボルネオ島のクリンタンなどに代表されるこれらの合奏は、西洋の管弦楽の和声原理とは異なる、基本旋律とその装飾を幾重にも重ねた多声的な層構造を特徴とする。リズムは日本や西洋とは感覚が逆の、二拍目と四拍目に強拍のくる二拍子、四拍子系を基本に、異なる時間区分の層を重ねたポリリズム的な構造をもっている。このような原理をもつ合奏は大陸の山間部や島嶼部の少数民族の間にもみられ(平ゴングの合奏、竹筒の合奏など)、名称や形態を変えて東南アジア一帯に広く存在する。
(3)音構成は五音音列が多く、中国の五音(ごいん)に近いものから、インドネシアのスレンドロのように五等分平均律に近いものまで多様である。インドネシアのペロや、ミャンマー(ビルマ)、タイおよびその周辺の七等分平均律など七音音列も存在するが、いずれも西洋のドレミからはかけ離れている。
 また、バリ島のガムランのように二台一組の楽器の音律を意識的に微妙にずらして、音響に波のような「うなり」を生じさせたり、タイやジャワ島のように定音律の旋律打楽器に対して、そこにない音を声や弦楽器で重ねてゆくなど、音のずれを楽しむ繊細な音感覚も各地でみられる。[川口明子]

各地域の音楽


インドシナ半島部
音楽的にもインド文化と中国文化の中間に位置するこの地域は、中国音楽の影響の強いベトナムと、インド音楽に関係の深いミャンマー(ビルマ)、その中間にあって両者からまたインドネシアからも影響を受けつつ独自の様式を生み出したタイ、カンボジア、ラオス、の三つに大別される。
 中間部の三国はともにカンボジアのアンコール文化の系譜を引く宮廷音楽を発達させてきたが、その中心となるタイの古典音楽には、旋律打楽器中心のピー・パートと弦楽器中心のマホーリーという二編成の音楽の流れがある。前者はダブルリードの笛ピーと木琴系のラナート類、環状ゴング・チャイムのコン・ウォン類などを主体とする力強い音色の編成で、儀式や古典舞踊の伴奏用として発達してきた。後者は胡弓(こきゅう)ソー類、鰐琴(がくきん)チャケーなどの弦楽器を主体とする柔らかな音色の編成で、おもに声楽の伴奏用として発達してきたが、後世、弦楽器中心の小規模編成クルアン・サーイが加わり、今日では三者が広く使われる。声楽は普通、リズム楽器(小シンバルのチンと太鼓)だけで伴奏され、声楽部分と器楽部分が交互に奏される。
 タイの古典音楽は逆輸出する形で隣国にも影響を与え、ピー・パートとマホーリーに相当するものがカンボジアのピン・ペアトとモホリ、ラオスのセープ・ニャイとセープ・ノイなどの旧宮廷音楽でもみられ、それらは多くの共通点をもっている。
 またラオスとタイ北東部のメコン川流域のラーオ人の間では、歌師モーラムによる民衆的な語物(かたりもの)歌謡ラムが盛んで、おもに笙(しょう)ケーンを伴奏に、男女の問答歌から仏教説話や民話を演劇化したものまで広く親しまれている。
 ミャンマー(ビルマ)の古典音楽は、古くはインドの流れをくみつつタイ系の音楽も取り入れて、独自の様式を育成してきた。調律された太鼓セットのパット・ワインを中心とする合奏サイン・ワインは、環状ゴング・チャイムのチー・ワインとマウン・サイン、ダブルリードの笛ネーなどを含む華やかな音楽で、寺院や王宮の儀式、舞踊の伴奏、操り人形などさまざまな民間芸能に広く用いられてきた。また室内楽的洗練性をもつ楽器としてビルマの竪琴(たてごと)サウンや竹琴パッタラーがあり、独奏や声楽の伴奏に使われる。さらにリコーダー式笛パルウェやオージィ、ドーバットなどの太鼓も重要である。
 ベトナムは隣接の中国、とくに広東(カントン)文化の影響を強く受けてきた地域で、音階・理論をはじめ、楽器も中国系のものが多い。箏(そう)、月琴(げっきん)、琵琶(びわ)、胡弓などに相当する弦楽器をはじめ、横笛、縦笛、太鼓類、木魚、銅鑼(どら)などは、ハノイやユエを中心とする旧宮廷音楽、仏教儀式、さらにさまざまな歌謡や娯楽音楽の伴奏などに使われてきたが、そのなかで一弦琴(いちげんきん)ダン・バウにみられるように微分音の使用などにベトナム独自の優雅さと繊細さを発揮している。また、山岳少数民族の間には笙や平ゴングの合奏、竹筒の合奏など、東南アジア的な要素をもつ音楽がみられ、注目される。[川口明子]
マレー半島と島嶼部
オーストロネシア的文化景観をなすこの地域は、独自の高度な音楽文化をもつインドネシアと、国際色豊かなマレーシア、音楽的にも西欧化の進んだフィリピンの三国からなる。
 中心となるのはインドネシア、なかでもジャワ島、バリ島で、音楽、舞踊、芸能の宝庫といえる。その最高峰は、旋律打楽器を中心とする大編成合奏のガムラン音楽で、ペロとスレンドロの音列を基本としている。とくに中部ジャワは古くから宮廷を中心に、繊細で優美なガムランをさまざまな儀礼や影絵芝居、舞踊との結び付きのなかで発達させてきた。壮大な楽器群から響き出される精緻(せいち)で深遠な響きは、世界観、宇宙観をも表出するものとなっている。西ジャワにはガムランのほかに、古典的声楽トゥンバン・スンダ(箏カチャピと笛スリンまたは胡弓ルバーブで伴奏)や、竹製ラットルのアンクルン、竹琴チャルンの合奏など多彩な音楽があり、最近では太鼓クンダンの激しく活躍する近代的舞踊音楽ジャイポンガンも人気をよんでいる。またアジアの他地域にはまれな日本の都節(みやこぶし)にも似た音列マドゥンダの存在も注目に値する。イスラム化されたジャワ島に対しヒンドゥー教を残すバリ島には、神々の世界にも通じる各種の舞踊や演劇に応じて多種のガムランが存在するほか、男声によるみごとなポリリズム群唱舞踊劇ケチャや、竹琴の大合奏など激しく躍動するような音楽が特徴的である。
 さらにジャカルタをはじめとする都市部ではポルトガルの流れをくむポピュラー音楽クロンチョン、中国系の影響もうかがえるガンバン・クロモンや、種々のポピュラー音楽など多様な様相をみせている。
 これらの多様性は隣国マレーシアではより顕著で、半島部の西マレーシアには、各地のイスラム宮廷の儀式音楽ノーバット(各種の太鼓、笛、ゴング類からなる)、シャーマンの儀式音楽マイン・プトゥリ(ルバーブ奏者がとくに活躍する)、音楽舞踊劇マヨン、舞踊音楽ジョゲットなど多彩な音楽があり、さらにジャワ系のガムランやクロンチョン、タイ系の音楽劇マノーラ、アラビア系の舞踊音楽ザピン、中国系の京劇など、多民族国家色が反映されている。
 なお、東マレーシアおよびインドネシアの外島部には多くの少数民族が固有の音楽をもっており、笙(ボルネオ)、ゴング類(サバのクリンタンなど)、竹筒・棒のリズム合奏、リュート(サラワクのサペーなど)、各種のフルート、鼻笛、口琴(こうきん)などがみられる。
 フィリピンは、スペインの入植以来のカトリック化とともに、音楽のうえでも西欧化が進み、東南アジアのなかでも特異な様相を示している。西洋的語法に土着的要素の混じった音楽様式が都市部を中心に発達し、オーケストラやバンド、ポピュラー音楽も早くから定着した。その一方で、ルソン島北部やミンダナオ島以南の南部にはインドネシアやオセアニアにも通ずる固有の音楽文化が存在し、北部の平ゴングの合奏(ガンサなど)、南部のこぶ付きゴング(クリンタン、アグンなど)の合奏、さらに二弦リュート、竹筒琴(ちくとうきん)、フルート、鼻笛、各種の太鼓などにその特徴が顕著にみられる。
 またマレー半島を皮切りに東進したイスラム化が音楽に及ぼした影響も各地でみられ、マレーシア、インドネシア、フィリピン南部のイスラム地域では、コーラン朗唱風の歌唱やアラビア系のダブルリード笛スルネイ、枠太鼓ルバナ、リュートのガンブスなどが使われ、現地化したイスラム舞踊歌(インドネシアのクォシダ、マレーシアのハドゥラーなど)も生まれている。[川口明子]

現状

東南アジアの伝統音楽は、近年それぞれの体系にあった記譜法も考案されてはいるが、基本的には口承を中心に伝承されてきた。現在は各国で伝統舞踊や音楽を育成する機関も設立され、それらの保持と時代に応じた新しい試みなどに努めている。その一方で、各国の都市部を中心に欧米の音楽の波も寄せつつあり、影響に程度の差はあれ、行進用のブラスバンドや、欧米風のロックやジャズとともに民族楽器や唱法を取り入れた現地化されたポピュラー音楽まで多種生まれている。さらに最近ではラジオやテレビなどのマス・メディアの発達に加えて音楽産業の進出も著しく、各国の都市ではカセットテープ屋が建ち並び、現地のさまざまな音楽から欧米や日本のポピュラー音楽まで幅広く売られている。[川口明子]
『黒沢隆朝著『東洋音楽選書8 東南アジアの音楽』(1970・音楽之友社)』

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