日本大百科全書(ニッポニカ) 「ケチャ」の意味・わかりやすい解説
ケチャ
けちゃ
kecak
インドネシアのバリ島で行われる芸能。本来、疫病平癒や魔除(よ)けを目的とする憑依(ひょうい)舞踊サンヤンsanghyangにおける男声合唱を意味していたが、1930年代にオランダ人がこの男声合唱をインドの叙事詩『ラーマーヤナ』を題材とする舞踊とあわせ、今日一般に知られているケチャの形にした。猿の軍団に見立てられた200人前後の男性が円形に座り、その中央で舞踊が行われる。男性コーラスは手や体を動かしながら、なかば忘我状態になってガムランのさまざまな楽器を擬音的に模倣する。その身ぶりやことばの多くは悪霊を追い払うための呪文(じゅもん)からきているといわれる。チャ、チュ、チなどの音を多用し、グループ別に異なるリズムを入れ子式に、いわゆるホケット(旋律に休符を挟んで短い断片にする技法)のように歌う。観光客向けのケチャも含めて、バリ島南部のいくつかの村で上演されている。わが国では、芸能山城(やましろ)組の演奏がよく知られている。
[卜田隆嗣]