原子番号、質量数が同じでも性質が異なる(たとえば半減期)核種が2種以上あるとき、これらは互いに核異性体であるという。原子核のエネルギー準位はγ(ガンマ)線領域にあり、高エネルギー準位にある励起核はγ線を放出して低準位状態に遷移する。この過程はγ崩壊であるが、一般にその半減期は測定不可能なほど短い。しかし、遷移の選択律によっては測定可能な寿命をもつ励起核も存在し、そのような状態にある核を異性核とよぶ。基底状態の核と異性核(複数の場合もありうる)とは互いに核異性体である。異性核の関与する遷移は異性核遷移isomeric transition(略号IT)とよばれる。どの程度の寿命であれば異性核とよばれるかは一定していないが、10-6秒程度以上であるものをいうことが多い。異性核は準安定状態metastable stateにあるため、質量数にmをつけ、234mPaのように書いて基底核と区別される。
また化学構造異性の一種で、環構造の結合様式の違いによって生ずる異性体を核異性体ということもある。
[岩本振武]
原子核の励起状態は,その励起エネルギーや角運動量に応じて,強い相互作用による中性子,陽子,α粒子などの粒子放出,あるいは電磁相互作用によるγ線放射などによって崩壊する。その寿命は通常10⁻5秒以下であるが,選択則あるいはより力学的原因で寿命が異常に長い励起状態が現れる場合がある。これを核異性体または異性核isomerと呼ぶ。代表的なものは,低い励起エネルギーの大きなスピン(角運動量)をもつ状態で,γ崩壊についての選択則により寿命が長くなるもの,核分裂の中間的過程に生ずる核分裂形状異性体,非常に大きなスピンの状態で,角運動量が集団的回転運動によるものから個々の核子(陽子と中性子の総称)の角運動量の整列に変化する付近に生ずるイラスト・トラップなどである。
執筆者:矢崎 紘一
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