日本大百科全書(ニッポニカ) 「構造異性」の意味・わかりやすい解説
構造異性
こうぞういせい
structural isomerism
分子式は同じであるが、構造式が異なる場合におこる異性現象で、いくつかの種類が知られている。
位置異性
同じ骨格の炭素連鎖構造あるいは環状構造に置換基が結合する際に、その位置の違いによっておこる異性。たとえば、プロピルアルコール(1-プロパノール)CH3CH2CH2OHとイソプロピルアルコール(2-プロパノール)CH3CH(OH)CH3は、互いに炭素原子数3の直鎖構造で、OH基の結合する炭素が末端(1-位)か中央(2-位)であるかの差による構造異性体である。ベンゼン環に2個の置換基が導入されるときには、オルトo-、メタm-、パラp-の3種の異性体が存在する。置換基の個数が増え、その種類も互いに異なるときには、考えうる異性体の種類はさらに多数となる。
[岩本振武]
メタメリズム
官能基異性の一種とも考えられるが、互いに化学的性質が類似しているときにいわれることが多い。プロピルアミンCH3CH2CH2NH2、イソプロピルアミン(CH3)2CHNH2、エチルメチルアミンC2H5NHCH3、トリメチルアミンN(CH3)3の場合がその例となる。
[岩本振武]
核異性
おもに脂環式化合物でみられ、環構造の結合様式の違いによって生ずる異性であり、カンファンとピナンの場合がその例となる。位置異性で例にあげたベンゼンの二置換体などにみられる異性を核異性とよぶこともあり、また、次に述べる環異性に含めることもある。
[岩本振武]
環異性
狭義には、複素環式化合物における原子の結合順序の差による異性をいい、イミダゾールとピラゾールがその例となる。
錯体における構造異性は複雑であるが、見かけの構造式の差に限定すれば、次のような例がある。
ジイソチオシアナト-ビス(チオ尿素)水銀(Ⅱ) [Hg(SCN)2(SC(NH2)2)2]と
テトライソチオシアナト水銀酸(Ⅱ)アンモニウム (NH4)2[Hg(SCN)4]
ペンタアンミン(ニトリト-κN)コバルト(Ⅲ)塩化物 [Co(NO2)(NH3)5]Cl2(黄色)と
ペンタアンミン(ニトリト-κO)コバルト(Ⅲ)塩化物 [Co(ONO)(NH3)5]Cl2(赤色)
ペンタアンミンニトリトコバルト(Ⅲ)塩化物のニトリト配位子NO2-は、前者ではN原子、後者ではO原子で配位しており、結合異性とよばれている。
ペンタアンミンクロリドコバルト(Ⅲ)硫酸塩 [CoCl(NH3)5]SO4(赤紫色)と
ペンタアンミンスルファトコバルト(Ⅲ)塩化物 [CoSO4(NH3)5]Cl(バラ色)
これはイオン化異性の例でもある。
[岩本振武]