桐野夏生(読み)キリノナツオ

デジタル大辞泉 「桐野夏生」の意味・読み・例文・類語

きりの‐なつお【桐野夏生】

[1951~ ]小説家石川の生まれ。犯罪に走る女性心理などをリアリティーあふれる手法で描く。「柔らかな頰」で直木賞受賞。他に「OUT」「グロテスク」「魂萌たまもえ!」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「桐野夏生」の意味・わかりやすい解説

桐野夏生
きりのなつお
(1951― )

小説家。石川県金沢市生まれ。成蹊大学法学部卒業。会社員を経て文筆業に入る。野原野枝の筆名でジュニア小説やロマンス小説を多く発表、またレディース・コミックの原作なども手がけるが、1993年(平成5)『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞を受賞、本格的作家への道を歩み出す。これは私立探偵村野ミロ主人公とするミステリーで、日本における女性私立探偵小説の先駆的作品といえる。続いて『天使に見捨てられた夜』(1994)が発表され、シリーズ作となっていくが、『水の眠り 灰の夢』(1995)では主人公がミロの父親となり、時代設定も1960年代と目先を変える工夫も凝らしている。女性が活躍するということでは、女子プロレスラーが主人公の『ファイアボール・ブルース』(1995)もある。

 その後、深夜の弁当工場で働くパート仲間の一人が夫を殺し、やむなくその処理を手伝うことになった主婦たちの行動が微細に描かれる『OUT』(1997)で日本推理作家協会賞を受賞し、作家としての地位を確立した。人生に行き詰まり、鬱積した日々を送る中年女性4人が犯罪に巻き込まれてゆく様子を鋭利な筆致で描き出したこの作品は、犯罪小説の新たな可能性を示してもいた。困窮した現実生活から抜け出したいと願う主婦たちの、胸の奥深くにしまい込まれていた悲痛な思いをあからさまにさらけ出すことに成功した。同時にいつしか転落への道を歩み始める彼女たちの本能欲望を、圧倒的なリアリティをもって描き切った。犯罪に走る人間は決して特別な存在ではなく、そこに描かれているのは現代社会とそこに住むわれわれの姿そのものだといっていいだろう。

 こうした資質は、長編サスペンス『柔らかな頬』(1999)で開花する。ミステリー小説の体裁をとりながら、作中で謎を解明しない手法が話題を呼び、第121回直木賞を受賞。

[関口苑生]

『『柔らかな頬』(1999・講談社)』『『顔に降りかかる雨』『天使に見捨てられた夜』『OUT』(講談社文庫)』『『ファイアボール・ブルース』『水の眠り 灰の夢』(文春文庫)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「桐野夏生」の解説

桐野夏生 きりの-なつお

1951- 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和26年生まれ。はじめ野原野枝実の名でジュニア小説,コミックの原作などを執筆。平成5年「顔に降りかかる雨」で江戸川乱歩賞をうけ,ミステリー作家として登場。10年犯罪小説「OUT」で日本推理作家協会賞,11年「柔らかな頬」で直木賞。17年「魂萌え!」で婦人公論文芸賞。20年「東京島」で谷崎潤一郎賞。21年「女神記(じょしんき)」で紫式部文学賞。「ナニカアル」で22年島清恋愛文学賞,23年読売文学賞小説賞。石川県出身。成蹊大卒。

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