横隔膜ヘルニア(読み)オウカクマクヘルニア(その他表記)Diaphragmatic hernia

デジタル大辞泉 「横隔膜ヘルニア」の意味・読み・例文・類語

おうかくまく‐ヘルニア〔ワウカクマク‐〕【横隔膜ヘルニア】

横隔膜に生じたすきまから、腹腔にある臓器胸腔へ脱出した状態呼吸困難などの症状を呈する。

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六訂版 家庭医学大全科 「横隔膜ヘルニア」の解説

横隔膜ヘルニア
おうかくまくヘルニア
Diaphragmatic hernia
(呼吸器の病気)

どんな病気か

 横隔膜の先天的または後天的な裂孔(れっこう)(裂けた(あな))から、腹部臓器が胸腔内や縦隔内に脱出した状態です。食道裂孔ヘルニア、ボホダレクヘルニア、モルガニヘルニア、外傷性ヘルニアが主なものです。

 食道裂孔ヘルニアは成人のヘルニアの80~90%を占め、脱出臓器は胃です。

 ボホダレクヘルニアは先天性のヘルニアで、左背側に多く、小腸大腸が脱出します。モルガニヘルニアも先天性で、右側に多く、大網(だいもう)(胃からエプロンのように垂れ下がり、横行結腸と小腸の間をおおう腹膜の一部)や横行結腸が脱出します。

 外傷性ヘルニアは、事故などで横隔膜が損傷を受けて発症します。通常、左側に多く、胃、小腸、大腸などさまざまな臓器が脱出することがあります。

原因は何か

 食道裂孔ヘルニアは、高齢になるにしたがい、肥満、妊娠、亀背(きはい)(背中が曲がって丸くなった状態)などの影響を受けて発症します。そのため、高齢女性に多くみられます。

 ボホダレクヘルニア、モルガニヘルニアは、先天的なものです。

 外傷性ヘルニアは、交通事故や高所からの転落事故で発症します。

症状の現れ方

 食道裂孔ヘルニアの多くは無症状です。食後に強まる胸骨後部痛や胸焼けを感じたり、吐血や下血を来す場合もあります。

 ボホダレクヘルニアが大きい場合は、出生直後に呼吸困難、チアノーゼなどの重い呼吸障害に陥ることがあります。モルガニヘルニアは、無症状から呼吸困難やチアノーゼを来す例までさまざまです。

 外傷性ヘルニアでは、受傷直後に胸骨下部の強い痛み、嘔吐、呼吸困難、ショックなどが現れることがあります。

検査と診断

 胸部X線検査で、胸腔内や縦隔内に腸管のガス像を認めます。消化管バリウム造影検査では、より明瞭に脱出した腸管が描写され、確定診断となります。

治療の方法

 食道裂孔ヘルニア胸やけなどの症状がある場合には、制酸剤などを投与します。無症状の場合は放置しておいてかまいません。

 ボホダレクヘルニア、モルガニヘルニア、外傷性ヘルニアでは手術が行われます。手術で、横隔膜裂孔がふさがれば予後は良好です。

病気に気づいたらどうする

 高齢の女性が、食後に強まる胸骨後部痛や胸やけを感じたら、食道裂孔ヘルニアの可能性があるので、内科を受診してください。

 ボホダレクヘルニアやモルガニヘルニアは、出生直後のチアノーゼなどから、産婦人科医が気づきます。

 交通事故や高所からの転落事故後に、胸骨下部の強い痛み、呼吸困難などを感じたら、早めに内科や外科を受診します。

沖本 二郎


横隔膜ヘルニア
おうかくまくヘルニア
Diaphragmatic hernia
(子どもの病気)

どんな病気か

 横隔膜ヘルニアには、先天性のものと後天性のものがあります。

 先天性のものにはさらに、ボックダレック(こう)ヘルニア(後外側裂孔(こうがいそくれっこう)ヘルニア)、傍胸骨孔(ぼうきょうこつこう)ヘルニア、食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニアの3種類があります。以下、それぞれについて解説します。

藤原 利男

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「横隔膜ヘルニア」の解説

おうかくまくへるにあ【横隔膜ヘルニア Diaphragmatic Hernia】

[どんな病気か]
 横隔膜に、生まれつき(先天性)あるいはなんらかの原因によって(後天性)、裂孔(れっこう)(あな)ができ、その孔(あな)を通って腹腔(ふくくう)内の臓器が胸腔(きょうくう)や縦隔(じゅうかく)に脱出した状態をいいます。種類は、その発生部位や病因によって、つぎのように分類されています。
■ボホダレク孔(こう)ヘルニア
 ほとんどが新生児にみられ、成人での例はまれです。左右どちらにも発生しますが、左側に多くみられます。脱出する臓器は、左側では小腸(しょうちょう)、大腸(だいちょう)、胃、脾臓ひぞう)などで、右側ではおもに肝臓です。
 おもな症状は肺や縦隔(じゅうかく)の圧排(あっぱい)(圧迫)による呼吸困難やチアノーゼなどの呼吸器症状と、嘔吐(おうと)などの消化器症状です。新生児の場合は、出生直後から重い呼吸困難症状がみられます。
■胸骨後(きょうこつご)ヘルニア
 モルガグニ孔(こう)ヘルニアともいいます。ヘルニアの内容は大網(たいもう)、横行結腸などです。
 新生児や乳児では多呼吸、チアノーゼなどの呼吸・循環症状がよくみられます。成人の場合は無症状のことが多いのですが、嵌頓発作時(かんとんほっさじ)には急激な症状があります。
食道裂孔(しょくどうれっこう)ヘルニア
 成人の横隔膜ヘルニアでもっとも多いものです。
外傷性横隔膜ヘルニア
 事故による胸腹部打撲(だぼく)や刺傷などで発生するものです。場所を選びませんが、横隔膜の左後半部によくみられます。事故直後に発生することもあれば、数年経過してから発生することもあります。
 症状は呼吸困難や嘔吐です。
[検査と診断]
 症状を観察し、胸腹部X線撮影、消化管造影、CT検査が行なわれて診断されます。
[治療]
 手術が原則です。とくに呼吸困難、チアノーゼなど重篤(じゅうとく)な症状の場合は、緊急手術となります。
 手術は開腹または開胸して脱出した臓器を腹腔内にもどし、ヘルニアをおこした孔を縫合(ほうごう)してふさぎます。

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百科事典マイペディア 「横隔膜ヘルニア」の意味・わかりやすい解説

横隔膜ヘルニア【おうかくまくヘルニア】

横隔膜にできたすきまから,腹腔内臓が胸部に入り込んでしまう状態。新生児期にみられる先天性の横隔膜ヘルニアは,胎児期の横隔膜が形成される時期になんらかの原因で孔が生じて起こり,消化管が心臓や肺を圧迫する。成人の横隔膜ヘルニアのほとんどは,横隔膜を貫いている食道の孔がなんらかの原因でゆるんだり大きくなって,そのすきまから胃が胸腔内に入り込む食道裂孔ヘルニアで,まれに外傷による横隔膜破裂によって起こることがある。治療は手術が原則で,胸腔内に脱出した腹腔臓器を元の位置に戻したのち,横隔膜のすきまや孔を縫合する。→ヘルニア

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内科学 第10版 「横隔膜ヘルニア」の解説

横隔膜ヘルニア(その他,腹膜疾患)

(1)横隔膜ヘルニア
 【⇨7-16-2)】[藤沢聡郎・松橋信行]
■文献
Debrock G, Vanhentenrijk V, et al: A phase II trial with rosiglitazone in liposarcoma patients. Br J Cancer, 89: 1409-1412, 2003.
Saab S, Hernandez JC, et al: Oral antibiotic prophylaxis reduces spontaneous bacterial peritonitis occurrence and improves short-term survival in cirrhosis: a meta-analysis. Am J Gastroenterol, 104: 993, 2009.

横隔膜ヘルニア(横隔膜の疾患)

 横隔膜の先天的あるいは後天的開裂部を通じて腹部あるいは後腹膜の臓器や組織が胸腔内に脱出した状態である.外傷性と非外傷性に大別される.非外傷性で最も頻度が高いのは食道裂孔ヘルニアである.[鰤岡直人・清水英治]
■文献
鰤岡直人:胸部写真が正常な呼吸器疾患.フレイザー,呼吸器病学エッセンス: 清水英治,藤田次郎監訳, pp 1001-1012, 西村書店,2009.
Fraser RS, Neil C et al: Disease of the diaphragm and chest wall. In: Synopsis of Diseases of the Chest (3rd ed), pp 897-911, Elsevier, Philadelphia, 2005.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「横隔膜ヘルニア」の意味・わかりやすい解説

横隔膜ヘルニア
おうかくまくへるにあ
diaphragmatic hernia

横隔膜に欠損孔があって腹腔(ふくくう)内の胃、小腸、結腸、肝臓(左葉)、脾臓(ひぞう)、膵臓(すいぞう)などの臓器が胸腔内に脱出した状態をいう。そのほとんどは左側に発生する。右側に少ないのは肝臓が欠損孔を閉塞(へいそく)するためと考えられている。多くは先天性で新生児期から症状を現すが、まれに外傷性横隔膜欠損による後天性ヘルニアもみられる。症状は、胸腔に脱出した腹腔臓器が肺を圧迫するため呼吸困難(チアノーゼ、呼吸促進、陥没呼吸、努力呼吸など)をきたす。先天性では、圧迫による肺の発育不全が高度なものほど、生後早期から症状が著明であり、予後も不良である。治療は、術前に適切な呼吸管理を行い、開腹して横隔膜欠損を修復する。

[戸谷拓二]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「横隔膜ヘルニア」の意味・わかりやすい解説

横隔膜ヘルニア
おうかくまくヘルニア
diaphragmatic hernia

横隔膜に存在する裂孔を通して腹腔内臓器が胸腔内に脱出した状態をいう。生理的裂孔の部位によって,食道裂孔ヘルニアボッホダレクヘルニア,モルガーニヘルニアなどの区別がある。横隔膜弛緩症との鑑別が重要である。なお,外傷性ヘルニアは外傷によって生じた裂孔から臓器が脱出したものをいう。

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世界大百科事典(旧版)内の横隔膜ヘルニアの言及

【ヘルニア】より

…しかし膀胱,卵巣,その他の内臓も脱出することがあるため,医学的に正確な呼名ではない。また,脱出臓器が腹膜に包まれていない場合は内臓脱出と呼ぶのが正しく,椎間板ヘルニア,脳ヘルニア,肺ヘルニア,および横隔膜ヘルニアや腹壁瘢痕(はんこん)ヘルニアは真のヘルニアとはいえない。しかし,外見上あるいは症状がヘルニアに類似するため,習慣上〈ヘルニア〉と呼ぶことが多い。…

※「横隔膜ヘルニア」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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