食道裂孔ヘルニア(読み)しょくどうれっこうへるにあ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「食道裂孔ヘルニア」の意味・わかりやすい解説

食道裂孔ヘルニア
しょくどうれっこうへるにあ

横隔膜ヘルニアの一種。食道横隔膜にある食道裂孔を通り胃につながっているが、本来は腹腔(ふくくう)内にある胃の一部もしくは全部が、この孔(あな)を通って胸腔内に脱出した状態をいう。腹腔内臓器(ほかに結腸小腸など)が胸腔内に脱出する横隔膜ヘルニアのなかで、胃が約95%を占める。先天的に食道が短く胃が胸腔内に引き込まれて脱出している短食道胸胃もあるが、後天的に脱出する場合が多く、鉗子(かんし)滑脱型と傍食道型およびその混合型に分類される。鉗子滑脱型は食道胃接合部の噴門部分と胃の一部が胸腔内に脱出したもので、全体の約80%を占める。傍食道型は食道胃接合部は腹腔内のままで、胃の一部が食道周辺を通り、胸腔内に脱出している。加齢による食道裂孔の弛緩(しかん)および開大によって起こり、また肥満、妊娠、喘息(ぜんそく)、慢性気管支炎、努責(どせき)(息張ること)、前傾姿勢などによる腹圧上昇も原因となる。40歳代以上の女性に多い。自覚症状がない場合も多いが、逆流性食道炎(胃食道逆流症)を併発する場合があり、胸やけ胸痛胸部不快感などを伴う。夜間睡眠時や食事の直後に症状が強く現れることがあり、喫煙飲酒、脂肪分の多い食事なども影響するとされる。診断はX線造影や内視鏡検査により臓器の位置および状態を確認して行う。予防のためには、消化のよい食事を少量ずつ何回もとる、摂食後横臥(おうが)を避ける、肥満に注意し便秘を起こさないなどの事項を心がける。自覚症状がない、または症状が軽い場合はそのまま放置してもよいが、逆流性食道炎の症状が著しい場合の治療は、H2受容体拮抗(きっこう)薬(ブロッカー)やプロトンポンプ阻害薬(PPI:Proton Pump Inhibitor)の投与による内科的な薬物療法が第一選択となる。難治例では、脱出した胃に加え食道も腹腔内に引き入れ胃ごと縫い合わせるニッセン手術(Nissen fundoplication)やヒル法(Hill method)などの外科的療法を用いる。傍食道型食道裂孔ヘルニアでは手術が第一選択となる。近年では腹腔鏡下手術も可能となり、短期入院でも治療できるようになった。

[編集部]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「食道裂孔ヘルニア」の意味・わかりやすい解説

食道裂孔ヘルニア
しょくどうれっこうヘルニア
esophageal hiatus hernia

胃が食道裂孔を通って胸腔内に入り込んだ状態をいう。横隔膜ヘルニアの約 80%を占める。食道裂孔は食道が横隔膜を通る生理的な裂隙であるが,これが弛緩,拡大すると腹腔内臓器が胸腔内に脱出する。次の3型がある。 (1) 傍食道型ヘルニア 食道の長さは正常であるが,胃の一部である胃底部が胸腔内に脱出したもので,左側に多い。 (2) 滑脱型ヘルニア 腹腔内食道と胃の噴門部がともに脱出したもので,食道は2次的に短縮する。この型が最も多い。 (3) 混合型ヘルニア 横隔膜は正常であるが,先天的に食道が短いために胃の下降が不十分で,胃の一部が胸腔内にとどまったもの。症状は食後の腹部膨満感,吐き気,嘔吐,食欲不振,胸やけ,胸部から上腹部の痛み,貧血,呼吸器障害などである。治療は,症状がない場合は特に必要なく (逆流性食道炎の合併が多い) ,重症例には手術を行う。保存的には上半身を 60度ぐらい挙上したり,食餌療法などを行う。

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