翻訳|laparotomy
腹腔内臓器の各種疾患や腹部外傷などの手術のために腹腔を開くこと。腹壁は皮膚,筋膜,腹膜からなっているが,皮膚から腹膜までを完全に切開することを開腹術という。開腹術の歴史はきわめて古く,前335年にコスのプラクサゴラスPraxagorasがイレウス(腸閉塞)に行ったのが最初。その後,麻酔法が発達し,制腐法および無菌法が確立された19世紀後半に至り,盛んに行われるようになった。腹壁の切開方法には多くの方法がある。いずれの方法によるにしても,操作が行いやすい手術野をみつけることが第一条件であるが,解剖学的構造,つまり神経や血管の走行,筋肉の繊維の方向などを十分に考慮し,不必要な組織の損傷をできるだけ避ける必要がある。まず皮膚の切開からはじまるが,これには多数の切開法がある。基本的には,縦切開(正中切開など),横切開,斜切開および交互切開の4種に大別される。代表的なものを以下にあげる。
体の正中線に沿った縦の切開で,切開の基本である。みぞおちから臍(へそ)を迂回して,恥骨上部まで,全腹部にわたる切開が可能。通常は上・中・下の正中切開に分ける。上正中切開は上腹部臓器すなわち胃,肝臓,胆囊,膵臓の病変に,中正中切開は大腸,小腸の病変に,下正中切開は直腸,泌尿器,性器の手術に用いられる。正中線は血管や神経,筋肉が解剖学上少ないので,これらの損傷を最小限にできること,また切開や縫合が容易なことから,最も多く用いられるが,反面,縫合後は最も抵抗の弱い部位になり,化膿や外力が加わることが原因となって離解しやすく,いわゆる瘢痕(はんこん)ヘルニアをつくりやすい。このため,副正中切開や副腹直筋切開など,正中線をはずして切開,縫合する予防対策も用いられる。
皮膚を割線に沿って切開するので,美容上最も無理がない。筋層は繊維を直角に切開する。呼吸に対する影響が縦切開よりも少ないことから,主として小児外科で用いられる。
斜切開,季肋縁切開,正中交互切開,側方交互切開,波状切開などがある。側方交互切開は虫垂炎のときよく用いられ,皮膚は斜切開で入り,その下の筋層を繊維の走行に平行して,切離しないで,開いていく方法で,手術後の後遺症が少ない。
執筆者:北島 政樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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