日本大百科全書(ニッポニカ) 「樹葬」の意味・わかりやすい解説
樹葬
じゅそう
樹上葬ともいう。死体を木の頂やまたのところに置く葬法で、直接木に縛り付けたり、樹上に台をつくり死体を置いたりする。樹上ではなく地上に台を設けて死体を置く台上葬と本質的に異ならないと考えられる。オーストラリア、メラネシア、アメリカでもみられるが、北アジアではとくに多く、ほとんどの民族が、かつて樹葬や台上葬を行っていたか、またはいまも行っている。北アジアの場合には、死者の霊魂が天へ昇るという天上他界の観念を背景にしていると思われる。北アジア系の樹葬の名残(なごり)をとどめていると考えられる葬法は朝鮮にもある。ただし、すべての死者に対してではなく、特定の病気による死者にだけ用いられ、その死体を菰(こも)に入れて木にかけるのである。京畿道(けいきどう/キョンギド)では、天然痘の死者を天に祀(まつ)る意味で3、4日木に吊(つ)るしてから埋めた例があり、慶尚北道(けいしょうほくどう/キョンサンプクド)では、はしかで死んだ子供の死体を、天魔の犠牲に供すといって川のほとりの老樹に莚(むしろ)包みにして吊るした。
日本でも、かつて奄美(あまみ)大島では巫女(のろくめ)の遺体を櫃(ひつ)に入れて木にかけ、3年間風雨にさらしたのち、骨を石櫃に入れて安置したという。本州では、昔から棺掛け桜、人掛け松など、樹葬と関連があるとみられる伝説があり、近年の報告でも山形県、石川県などに、焼いた骨またはその一部を菰に入れ、墓地や火葬場の樹木にかける風習の事例がみられる。本州での分布が日本海側に偏っていることから、北アジア系の樹葬との関連性が注目されている。
[清水 純]