武器よさらば(読み)ブキヨサラバ(英語表記)A Farewell to Arms

デジタル大辞泉 「武器よさらば」の意味・読み・例文・類語

ぶきよさらば【武器よさらば】

《原題A Farewell to Armsヘミングウェイ長編小説。1929年刊。第一次大戦中のイタリア舞台に、アメリカ人中尉ヘンリーイギリス人看護婦キャサリンとの悲恋を通して、戦争がもたらす悲劇を描く。

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精選版 日本国語大辞典 「武器よさらば」の意味・読み・例文・類語

ぶきよさらば【武器よさらば】

(原題A Farewell to Arms) 長編小説ヘミングウェー作。一九二九年発表。第一次世界大戦下のイタリアの戦線で、アメリカ人中尉ヘンリがイギリス人看護婦キャサリンと恋に陥り、戦争の非情虚無を脱出しようとして悲劇に終わる過程を、ヘンリの一人称で描く。戦争文学代表作の一つ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「武器よさらば」の意味・わかりやすい解説

武器よさらば
ぶきよさらば
A Farewell to Arms

アメリカの小説家ヘミングウェイの代表的長編小説。第一次世界大戦時のイタリアとスイスを背景として、戦争と愛と死を描いた傑作。1929年刊。イタリア軍衛生輸送隊に志願入隊したアメリカ青年フレデリック・ヘンリーは、イギリス人篤志看護婦キャサリン・バークレイと真剣に愛し合うようになる。有名な「カポレットの大敗走」に巻き込まれたヘンリーは、愛国主義の無意味と欺瞞(ぎまん)を知り脱走する。妊娠しているキャサリンとスイスに逃れるが、そこでの至福の日々はキャサリンの死産と突然の死によって破局を迎える。作者自身の戦傷と失恋に終わった恋愛体験を踏まえた、現代戦争文学の白眉(はくび)であり、現代版『ロメオとジュリエット』と称される。この世の虚無と非情を、ハードボイルドといわれる感傷を排した文体で描いている。含蓄の深い表現も多く、とくに雨を象徴的に用いている。「彫像に別れを告げているようだった。しばらくして病室を出、病院を後にし、雨の中を歩いてホテルに帰った」で終わる幕切れの部分は何度も推敲(すいこう)された有名な文章である。作者はこの作品によって名声を不動のものとした。

[武藤脩二]

『大久保康雄訳『武器よさらば』(新潮文庫)』『谷口陸男訳『武器よさらば』上下(岩波文庫)』『高村勝治訳『武器よさらば』(講談社文庫)』

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改訂新版 世界大百科事典 「武器よさらば」の意味・わかりやすい解説

武器よさらば (ぶきよさらば)
A Farewell to Arms

アメリカの小説家ヘミングウェーの小説。1929年刊。《日はまた昇る》と並ぶ彼の代表作で,戦争文学の傑作の一つとされる。第1次大戦でドイツ,オーストリアを相手に苦戦するイタリア軍に加わったアメリア人中尉フレデリック・ヘンリーの苦い体験の物語。理不尽で悲惨な近代の戦争,それを支える空疎な大義名分に対する中尉の幻滅の過程と,イギリス人の篤志看護婦キャサリン・バークリーとの悲劇的な恋のなりゆきとが,緊密に練り上げられた構成のなかでからみ合う。選び抜かれた単純な語彙,張りつめたリズム,曲折したひびきを伝えるそっけない会話,心理を締め出すことでかえって人物の感情をじかに浮かび上がらせる徹底した外面描写の手法など,いわゆるヘミングウェー文体の迫力はこの作品で頂点に達した。ことにカポレットの総退却から,〈単独講和〉を決意した中尉の脱走に至るくだりは名高い。
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百科事典マイペディア 「武器よさらば」の意味・わかりやすい解説

武器よさらば【ぶきよさらば】

ヘミングウェーの小説。《A Farewell to Arms》,1929年刊。第1次大戦下のイタリアを舞台に,米人中尉フレデリック・ヘンリーと英人看護婦キャサリン・バークリーの悲劇的恋愛を,作者自らの体験に基づく苛烈な戦場描写をまじえて描く。1933年および1958年に映画化されている。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「武器よさらば」の意味・わかりやすい解説

武器よさらば
ぶきよさらば
A Farewell to Arms

アメリカ合衆国の小説家アーネスト・ヘミングウェーの小説。 1929年刊。第1次世界大戦中のイタリア戦線で戦うアメリカ人の中尉とイギリス人の女性看護師との極限状況下における純愛,女の死による愛の終わりを描き,戦争のむなしさ,人生の悲劇性を訴えた作者の代表作の一つ。 1930年ローレンス・ストーリングズが劇化,1932年,1958年に映画化された。

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世界大百科事典(旧版)内の武器よさらばの言及

【ヘミングウェー】より

…1926年の《日はまた昇る》は,パリにたむろするアメリカ,イギリスの〈国籍離脱者〉たちの無軌道な生活と,その底にひそむストイックな〈おきて〉への信奉ぶりを通じて大戦後の精神の荒廃を描き出す傑作として,作者を一躍〈ロスト・ジェネレーション〉の代弁者の地位に押し上げた。鍛えぬかれた羅列的口語体を駆使して刻々と展開する〈なまの現実〉を再現し,強烈な臨場感を与える彼のスタイルは,この作品と次の《武器よさらば》(1929)で完成の域に達し,多くの模倣者を生んだ。 その後の彼は,一種の時代の偶像として,アフリカでの猛獣狩り,スペイン内乱での救援活動,第2次大戦への参戦,再訪したアフリカでの飛行機事故,キューバ沖での海釣りなど,そのタフな活躍ぶりが逐一報道されるほどの名声を得たが,作家としての幅の狭さや歴史的・社会的意識の欠如に対する批判,ことに往年の自己抑制力を失って短所ばかりの目だつ《持つと持たぬと》(1937)や《川を渡って木立の中へ》(1950)の不評に苦しんだ。…

※「武器よさらば」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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