日本大百科全書(ニッポニカ) 「歩く玩具の仕組み」の意味・わかりやすい解説
歩く玩具の仕組み
あるくがんぐのしくみ
ヒトや動物の歩行の仕組みを利用した移動装置はいまのところ実用化されてはいない。しかし玩具(がんぐ)売場では、ユーモラスな二足や四足の歩行おもちゃが目を楽しませてくれる。マイクロコンピュータが内蔵されていて複雑なコースを歩くロボットなどもあって飽きない。かなり実物に近い歩き方の昆虫の模型もある。
実用化されている移動のための機械は、ほとんどが車輪と車軸をもっている。その数も、1個から多数(列車など)のものまで種類が多い。しかし二輪車と四輪車の数が群を抜いている。車輪のある移動機械は円板状の車輪の転がりを利用している。これは非常に能率のいいもので、平らな道路であれば、移動のためのエネルギーはきわめて少なくてすむ。ところが道路に凹凸がある場合には、車輪はその凹凸に応じていつも地面についているために、上下の動揺が著しく、エネルギー消費も大きい。
一方、ヒトや動物の足は飛び飛びに地面につくので一歩の間の凹凸や高い低いはあまり問題にはならない。ヒトでは斜面の上り下りには階段があるほうがいい。しかし車輪で階段を上り下りするのはむずかしい。自然界には道路のような平坦(へいたん)な面はむしろないといったほうがよい。したがって、平坦でない地面を歩きまたは走るような機械が必要な場合がある。現在そのような環境で使用するのはキャタピラーを用いたものや、特殊なタイヤを用いた四~六輪車がある。ウマやカモシカのように荒れ地や山岳の岩場を動き回れる乗り物がほしいこともあるが、まだ研究段階である。
また、ヒトのように二足歩行の機械も研究されてはいるが、動力源の問題や歩行速度の点で、ヒトが歩くような機械の出現にはかなり時間がかかりそうである。ロボットの概念のなかに人形ロボットというのがあり、ヒトの手の作業と歩行および脳の働きをもった機械についての考え方は、古くからあった。脳に相当するコンピュータの小型化は現実のものとなってきているが、筋肉に相当する手や足の駆動部分の大きさや重さをヒトと同じぐらいにすることは、現在のところでは期待薄である。
四足で歩く
歩く玩具はしかし単純で巧妙にできている。四足の歩く玩具では、四足は同時に左右逆に動く仕組みになっている。つまり右前足と左後ろ足が前に出て、次に左前足と右後ろ足が前に出るように動く。それは、左右の前足・後ろ足それぞれが一体となっていて、動きの中心が胴体の下面の中心線上に前後にあり、前足と後ろ足が逆に動くように棒でつないである。そして後ろ足のほうは前後方向のほかに、わずか上下にも動くようにしてあるので、つねに前足の2点と後ろ足の下方になった1点の計3点で支持されているため転ばない。前足は床面を滑らせているだけであるが、後ろ足の1点はまた前進の働きもする。
二足で歩く
玩具の二足歩行のほうは、足が大きなコの字形のものを左右向かい合わせにしてある。一方の足で体を支えている間に、反対側の足を上げて、前方に送り出す。体を支える位置にきたときに、この足を下ろして止める。反対側の足を引き上げて前に送る。以上を繰り返す。コの字の前の辺がつまさき、後ろの辺がかかとと考えてもいいが、ヒトの場合とは違う。膝(ひざ)がないので、足を引き上げることが必要になる。玩具の四足や二足でも、方向転換はできない。生物の動き方との共通点は、左右交互に動くという点だけである。
二足で滑り降りる
ほかに玩具として、動力はもっていないが、斜面を、体を左右に振りながら、足は交互にカタカタと動かして降りる小さなおもちゃがある。足の下面が曲面になっているので、下ろうとすると足は胴体の後方に行く。このとき、胴体が左右のどちらかに傾くと、反対側の足が浮き上がり前方に振れて斜面につき、下に下がる。胴体は重力で前進するが、胴体は次には反対方向に傾いて、初めの足が浮き上がる。いつも片足しかついていないので、手に相当する部分を横に長い棒にして、弥次郎兵衛(やじろべえ)のようにバランスをとらせる必要がある。これは歩き方がリアルで、初めて見た人は大声で笑う。まだほかにも歩行玩具はあるが、いずれにしても、生物の感じはあっても機構は違う。
昆虫は六足で、いつも3点支持であるから、機構としては単純であるが、関節の数が多くなる。しかし乗り物としての歩く機械や歩行ロボットは六本あるいは八本足のほうが安定しているので、移動のための足の数はその方向へ向かうであろう。
[塚原 進]