歯槽骨炎(読み)しそうこつえん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「歯槽骨炎」の意味・わかりやすい解説

歯槽骨炎
しそうこつえん

顎骨(がくこつ)の炎症歯槽骨部(顎骨のなかで歯を直接支えている部分)に限局しているものを歯槽骨炎とよび、急性歯槽骨炎と慢性歯槽骨炎とに分けられる。

[矢﨑正之]

原因と感染経路

原因は各種のブドウ球菌、連鎖球菌、肺炎球菌大腸菌などの単独感染によるか、種々の腐敗菌、嫌気性菌の加わった混合感染による。また、感染経路としては、(1)う蝕(しょく)(むし歯)から歯髄炎を経て根尖(こんせん)性歯周炎(いわゆる歯根膜炎)を生じ、これがさらに周囲の骨に拡大するもの、(2)歯の周囲の軟組織の炎症、すなわち歯肉炎、辺縁性歯周炎などに継発するもの、(3)抜歯創、骨折、あるいは歯肉損傷などからの感染によるもの、(4)身体の他の部の炎症から血行を介して感染するもの、などがあげられる。

[矢﨑正之]

臨床所見と経過

臨床的にみると前述の(1)である、う蝕が原因となっておこる歯槽骨炎がもっとも多く、そのほとんどが急性歯槽骨炎である。急性歯槽骨炎では、拍動性の著明な疼痛(とうつう)があり、誘因歯の弛緩(しかん)動揺と激しい打診痛、咬合(こうごう)痛があり、舌でその歯に触れても痛い場合が多い。隣在歯の動揺と打診痛は少なく、あっても軽度である。腫脹(しゅちょう)は誘因歯の頬側(きょうそく)の歯肉および歯肉頬移行部に限局するが、炎症が進行するにしたがって、外頬部まで腫脹することがあり、所属リンパ節の腫脹と圧痛もみられる。全身症状としては発熱、ときには悪寒を伴い、不眠、頭痛とともに食欲不振に陥る。根尖部にたまった膿汁(のうじゅう)(うみ)は、歯槽骨の抵抗の弱いところに排泄(はいせつ)路を求めて外方に進むため、歯槽骨の骨膜下に膿瘍(のうよう)(骨膜下膿瘍)を形成し、さらに歯肉膿瘍となる。膿汁が粘膜下に出て歯肉膿瘍を形成すると、骨内の内圧が下がり、自発痛は急速に減退して炎症は限局し、波動を触れるようになる。歯肉膿瘍が自潰(じかい)するか、または人工的な切開によって排膿すると、排膿部に瘻孔(ろうこう)(管状のあな)が残ったまま苦痛のない慢性歯槽骨炎に移行する。

 歯槽骨炎の場合、細菌の菌力が強いときや局所の抵抗力が減弱しているときには、炎症は歯槽骨にとどまらず顎骨骨体部にまで拡大し、顎骨骨膜炎、顎骨骨髄炎、さらには周囲軟組織の口腔(こうくう)底炎、顎骨周囲炎、扁桃(へんとう)周囲炎、頬部蜂窩織炎(ほうかしきえん)などをおこすことがある。

[矢﨑正之]

治療

歯槽骨炎のほとんどは急性症状を示すため、初期には全身と局所の安静を保ち、抗生物質と非ステロイド系消炎剤の投与を行う。膿瘍を形成した場合には切開して排膿を図る。急性症状が消退したのちは、原因歯に対する処置を行う。多くは感染根管が原因となっているため、可能な限り感染根管治療によって原因歯の保存を図るが、歯周組織の破壊の状態によっては抜歯の処置を行うこともある。

[矢﨑正之]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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