日本大百科全書(ニッポニカ) 「死体化生神話」の意味・わかりやすい解説
死体化生神話
したいけしょうしんわ
神または人間が死に、その死体からさまざまな事物が発生したという形式の神話。その代表的なものは、死体から宇宙あるいは世界が発生したという「盤古(ばんこ)型神話」と、死体から栽培植物が発生したという「ハイヌウェレ型神話」である。中国の『述異記(じゅついき)』(任昉(にんほう)著、6世紀)によれば、昔、盤古という巨人が死んだとき、その頭は四岳、目は日月、脂は江海、毛髪は草木となったといい、『五運歴年記(ごうんれきねんき)』(三国呉(ご)の徐整著)によれば、盤古がまさに死のうとするとき変身し、呼吸は風雲、声は雷、左目は太陽、右目は月となった。さらに、手足と五体は天を支える4本の柱(四極)や五つの名山(五嶽)になり、血液は川、筋や脈は地理、肌や肉は田土、髪や髭(ひげ)は星、皮や毛は草木、歯骨は金石、精髄は珠玉となり、汗は流れて雨沢に、身体に寄生していた虫は風に感じて人民となったという。インドの聖典『リグ・ベーダ』によれば、原人プルシャがいけにえにされたとき、口から祭司階級(バラモン)、両腕から王族(クシャトリヤ)、両腿(もも)から農工商階級(バイシャ)、両足から奴隷階級(シュードラ)が生じ、さらに心臓から月、目から太陽、へそから空界、頭から天界、足から地界、耳から方位が生じたという。同様に北欧神話でも、原巨人イミルの死体から世界の個々の部分ができたという。ほかにミクロネシアなどにも類話があり、世界的にみて古代文明地帯とその影響圏に顕著にみられる神話形式である。
[大林太良]
『大林太良著『神話学入門』(中公新書)』▽『大林太良著『世界の神話』(1976・NHKブックス)』