死をつかさどる神。死者の国(冥界)など死者が赴く他界の王や主とされることが多いが,より一般的には,人間や動物に死をもたらす悪霊・病魔が死神としてイメージされることが少なくない。
インドの死神ヤマYamaは冥界をつかさどり,侍者を遣わして臨終の間際にある者の霊魂をとらえ,宮殿に連れて来させる。そこではチトラグプタChitraguptaが死者の生前の行為の記録を読み上げ,ヤマはこれに基づいて審判する。この観念はインドの方位観や死体処理の仕方に反映している。インドでは南はヤマが住むゆえ,悪しき方角であるとされ,死者は頭を南向きにして寝かされ,埋葬や火葬もそのようにされる。アンダマン諸島では死,病気,不幸のすべてが悪霊に帰される。死神は病気の神でもあり,いろいろな不幸をひき起こす神でもある。このように死神の概念には死者の国の統治者が死者の霊魂を連れてきて管理するという意味と,生者に直接死をもたらす悪霊という意味が含まれている。
→死 →死の舞踏 →死霊
執筆者:佐々木 宏幹
日本の死神は疫病神とは異なり,身体の健康な者を死に誘うという神である。和歌山県田辺では首つり,投身などの自殺者を見つけたときは2人以上で助けねばならない,1人で助けると死神が救助した者につくからだという。また,死神がつくと死ぬのがおもしろくなるらしく楽しそうに自殺するという。これを止めた者が自殺を試みた者と同じ方法で死んだという話がある。その死神も食事をすれば離れるといい,また夜道の山越えのとき首つりをしたくなった者が,行先で餅をごちそうされて急に帰るのが恐ろしくなり死をのがれることができたともいう。
死神という語は心中を題材とした近松門左衛門の浄瑠璃に多く見られる。《心中刃は氷の朔日》の〈小かんと平兵衛の覚悟〉にも〈人顔見へぬ時分に足を限りにいづくでも見事に体(からだ)を並べたい。ひらに待ちやと制すれば 同じくは今こゝでちっとも早ふと死神の 誘ふ命のはかなさよ〉とある。《心中天の網島》にも〈死神ついた耳へは,異見も道理も入るまじとは思へども〉と見えている。
執筆者:田中 久夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
人を死に誘う神、または人に死ぬ気をおこさせる神をいう。死神ということは近世になって歌舞伎(かぶき)芝居や花街の巷(ちまた)などで多く口にされるようになった。近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)『心中天網島(てんのあみじま)』に「死神憑(つ)いた耳へは、意見も道理も入るまじ」とあり、同じく『心中刃(やいば)は氷の朔日(ついたち)』に「同じくは今こゝでちっとも早うと、死神の誘ふ命のはかなさよ」とある。また三好想山(みよししょうざん)の『想山著聞奇集』に「死に神の付たると云(い)ふは嘘(うそ)とも云難き事」という一節があり、ある女郎に死神が取り憑き客の男と心中を遂げたことが記してある。
現代においても死神ということは各地でいわれている。彼岸の墓参りは普通、入りの日か中日にするが、岡山県下ではアケの日をサメともいって、この日に参ると死神に取り憑かれるという。また入りの日に参ればアケの日にも参らねばいけない、片参(かたまい)りをすると死神が取り憑くという。静岡県浜松地方では、山や海、または鉄道で人が死んだあとへ行くと死神が取り憑くという。そういう所で死んだ人には死番(しにばん)というものがあり、次の死者が出ない限り、いくら供養されても浮かばれないので、あとからくる人を招くのだという。死神の背景には、祀(まつ)り手のない死者の亡霊が仲間を求めて人を誘うという考え方があったと思われる。
[大藤時彦]
落語。明治20年代に三遊亭円朝(えんちょう)が、イタリアのオペラ『靴直しクリピスノ』から翻案したといわれるが、明治30年代に三遊亭円左が口演してからよく知られるようになった。「ステテコの円遊」はこれを改作して『誉(ほまれ)の幇間(たいこ)』と題した。借金に苦しむ男が自殺しようとしているところへ死神がきて、死神が枕元(まくらもと)にいれば病気は治らないが、足元にいると治るといって死神退散の呪文(じゅもん)を教える。男はそれを知って医者になって大もうけをするが、遊びすぎて金がなくなる。その後、金持ちの病人によばれ、枕元に死神がいるので寝床を半回転させて病人を全快させるが、だまされた死神が怒り、男は生命のろうそくの所へ連行される。いまにも消えそうなろうそくが自分の生命だといわれた男は、ふるえながらろうそくを継ぎ足そうとするが、ろうそくは継げず、「ああ消える」といってばったりと倒れる。十分にくふうを凝らした6代目三遊亭円生(えんしょう)の「しぐさ落ち」が好評であった。
[関山和夫]
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
… さかさ落ち一つ目小僧を捕らえて見世物にしようと出かけた男が,一眼国(いちがんこく)で逆に見世物にされる《一眼国》のように逆の結果になる型。 しぐさ落ち自分の寿命をしめす蠟燭を継ぎ足そうとした主人公が,〈ああ消える〉といって倒れる《死神》のように形で見せる落ち。 地口(じぐち)落ち《たが屋》が一例。…
…パノフスキーは前者を〈死後志向型〉,後者を〈生志向型〉と呼ぶが,究極においては,ともに,いかに人類が死と和解しようとしてきたかを表しているといえよう。
[生と死の対面]
第3の型は,このいずれとも異なり,生の最中にこれを脅かし,破壊する恐るべき死神としての〈死〉の表現である。これについては,ヨーロッパの全人口の1/4が死んだといわれる14世紀半ばのペストの流行が大きな契機となったとされるが,その背景として,キリスト教的な世界観の衰退と,現世における生の向上という中世末期の社会状況があったといえる。…
※「死神」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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