改訂新版 世界大百科事典 「母子家庭父子家庭」の意味・わかりやすい解説
母子家庭・父子家庭 (ぼしかていふしかてい)
一般に未成年の子どもにとって,父親あるいは母親を欠く家族をそれぞれいう。厚生省の1978年の調査によると,全国の母子家庭は約63万世帯,うち死別によるもの49.9%,生別50.1%である。1952年の同種の調査では69万世帯の母子家庭のうち,85%は死別によるもので,これは戦争遺家族としての母子家庭が少なからぬ比率を占めていたことによる。しかし近年は離婚の増加などの影響もあり,しだいに生別の母子家庭が増加しつつある。また幼い子をかかえた若年の母子家庭が増えている点,さらに母子家庭になって以降,母親の生家に身を寄せたり,婚家先にとどまったりすることが少なくなり,母と子のみからなる母子家庭が増えている点なども,現代の特徴である。母子家庭が直面する生活問題としてまず経済的な問題があり,多くの母子家庭では母親が一家の中心的な稼ぎ手となるが,収入や労働条件などの面で,適当な就職口をみつけにくい。また,母親がひとりで仕事と家事,育児をこなさなければならない場合は,その無理がたたって健康をそこなうことすらある。さらに父親のいないことが,子どもの社会化やパーソナリティ形成に与える影響も少なくない。
父子家庭については,その数が母子家庭に比べて少ないこと,経済的困難が少ないと一般に信じられていたことなどにより,これまでほとんど注目されなかった。しかし後者の点は必ずしもそう言いきれないこと,男手ひとつでは家庭内のことがおろそかになりがちだという事実が指摘され,ようやく社会問題としてとりあげられはじめた。最近では,母子家庭と父子家庭をあわせて〈単親家庭one-parent family〉と呼びならわそうという動きも一部でみられる。これは,母子・父子両家庭の問題の共通項に注目するとともに,母子家庭,父子家庭,あるいは欠損家庭といった従来の名称にともなう,差別的なニュアンスをぬぐいさろうという意図をも含んでいる。
執筆者:藤崎 宏子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報