母子神信仰(読み)ぼししんしんこう

改訂新版 世界大百科事典 「母子神信仰」の意味・わかりやすい解説

母子神信仰 (ぼししんしんこう)

母子像に宿る聖なる呪力を信じ,それを祭祀の対象とする事例は,世界各地にひろくみられる。その代表的モティーフは,幼児に授乳する母親の姿をかたどったものである。このモティーフは古代オリエントや古代インドはもとより,中南米のプレ・コロンビア期の土器,あるいはヨルバ族アシャンティ族など西アフリカ諸族の彫像などにみられる。もう一つの重要なモティーフは,死んだ子どもを抱く母親である。死んだキリストを抱く聖母マリアの像(ピエタ)はその典型である。世界最古の母子像は,メソポタミアで出土した前3700年ころの,乳児を抱く蛇頭女性像である。古代オリエント世界ではアスタルテイシュタル)を代表とする女神祭祀がひろくみられ,それらは大地の豊饒力と女性の生産力を基本的に象徴化していた。そしてそのような女神が子神を伴って崇拝されることも少なくなかった。たとえばエジプトには,女神イシスが幼児ホルスを抱いて授乳する像や,イシスのひざの上に向きあって座るファラオ(王)の浮彫がある。母子像は母と息子に限らず,古代ギリシアのデメテルコレー(あるいはペルセフォネ)のように,母と娘の場合もある。オリエント世界に出現した初期キリスト教は,父子神信仰を正統的教義にすえたため,こうした母子神信仰を偶像崇拝として排斥したが,カトリックや東方正教は聖母マリア信仰という形で古代母子神信仰を事実上復活させている。そのカトリックが日本に伝来し,江戸幕府によって禁圧された際,マリア信仰は観音信仰と習合しマリア観音という特異な母子神信仰を生みだした。日本の母子神信仰では,この観音とともに鬼子母神きしじん)が出産・育児と結びつく代表的な崇拝対象である。なお,1970年代後半から,水子(みずこ)を抱く地蔵像が全国の祈禱寺院を中心に急速に普及しはじめた。この水子地蔵信仰は,死者祭祀の系列の母子神信仰とみなすことができる。
地母神 →マリア →女神
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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