毒物および劇物について,保健衛生上の見地から必要な取締りを行うことを目的とする法律。1950年公布。
〈毒物〉〈劇物〉とは,それぞれこの法律の別表第1・第2に掲げられた物で医薬品および医薬部外品以外のものをいい(2条。毒物は黄リン,ヒ素など,劇物はクロロホルム,アンモニアなどがあげられている),その販売・授与および販売・授与の目的をもった製造,輸入,貯蔵,運搬,陳列等の行為は,厚生大臣または都道府県知事の登録を受けた製造,輸入,販売の毒物劇物営業者に限って許されている(3,4条)。また,毒物であって別表第3に掲げられた〈特定毒物〉(オクタメチルピロホスホルアミド,四アルキル鉛等)の製造,輸入,使用,譲渡,譲受,所持等は,都道府県知事の許可を受けた特定毒物研究者,毒物劇物営業者および政令で指定を受けた特定毒物使用者に限って許される(3条の2)。
毒物劇物営業者は,製造所,営業所または店舗ごとに,一定の資格を有する毒物劇物取扱責任者を置かなければならず(7,8条),毒物・劇物の取扱い,表示,譲渡,交付,廃棄,運搬等には,保健衛生上の危害を防止するための厳格な規制が加えられている(11~16条)。
これらの規定の違反に対しては,登録の取消し,営業の全部または一部の停止処分がなされうる(19条)ほか,刑罰も規定されている(24~27条)。
さらに,シンナー等の濫用に対処するため,1972年の改正によって,興奮,幻覚または麻酔の作用を有する毒物または劇物であって政令で定めるものを,みだりに摂取・吸入またはこれらの目的で所持することを禁止・処罰する規定が設けられた(3条の3,24条の3)。また,引火性・発火性または爆発性のある毒物または劇物で政令で定められたものを,業務その他正当な理由なく所持することも,禁止・処罰されることとなった(3条の4,24条の4)。これらの行為に供することを知りながら販売または授与した者も処罰される(24条の2)。
→薬物犯罪
執筆者:佐伯 仁志
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
保健衛生上の見地から毒物および劇物について必要な取締りをする法律。昭和25年法律第303号。毒物および劇物の製造、輸入、販売の営業を登録制とし、薬剤師など一定の資格を必要とする取扱い責任者を置くほか、取扱い、譲渡などについて厳重な規制が設けられている。なお、1955年(昭和30)に追加、83年の一部改正によって、興奮、幻覚または麻酔の作用を有する毒物または劇物(これらを含有するものも含む)であって政令で定めるものは、みだりに摂取、吸入し、またはこれらの目的で所持することが禁止、処罰されることになり、また1972年の追加条項によって、引火性、発火性、爆発性のある毒物または劇物であって政令で定めるものも、業務その他正当な理由による場合を除いて所持することが、同様に禁止、処罰されることになっている。
この法律でいう毒物および劇物というのは、医薬品(毒薬および劇薬)以外の毒性の強いものをさし、毒物はこの法律の別表第1、劇物は同じく別表第2、また特定毒物は同じく別表第三に掲げたものをいう。そのおもなものを示すと、毒物には黄リン、クラーレ、シアン化水素、シアン化ナトリウム、水銀、ヒ素、フッ化水素、ニコチン、パラチオンなど、劇物にはアクリルニトリル、アニリン、アンモニア、塩化水素、過酸化水素、カリウム、クレゾール、クロロホルム、四塩化炭素、シュウ酸、臭素、硝酸、水酸化ナトリウム、ナトリウム、ニトロベンゼン、二硫化炭素、発煙硫酸、ホルムアルデヒド、メタノール、ヨウ素、硫酸、リンデン、PCPなど、特定毒物には四アルキル鉛、モノフルオール酢酸などが含まれている。
[幸保文治]
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…シアン化合物はめっき,冶金,種々の化学物質の製造などに用いられており,産業中毒として発生するが,近年,工場排水による水汚染,自動車の排ガスによる大気汚染,新建材などの燃焼によるシアンガスの発生などが問題となっている。また,自殺・他殺などに用いられることもあり,毒物及び劇物取締法(1950制定)により,シアン化合物の輸入,製造,販売,管理などについては,厳しく規制されている。【溝口 勲】。…
※「毒物及び劇物取締法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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